自衛官としての誇りが自分を苦しめる
加えて、50代後半ともなれば、必然的に自分の身体の衰えを自覚するだけでなく、両親の介護の問題なども出てくる。「退職後にはじめて親が認知症だと気づいた」と話す自衛官もいた。加えて晩婚化の進むこの時代、50代半ばで教育費が必要な家庭などごまんとある。
夫婦間でも、「女房は給料が半分以下になったのに相変わらず偉そうな顔をする俺に不満を持ち、あわや熟年離婚の危機に陥った」と話す人もいた。さまざまなストレスがボディーブローのように効いてくるのが、定年退官した自衛官の状況であるといっていいだろう。
まだ50代という若さで、居心地のいい場所を奪われ、「民間」というこれまでとはまったく違う環境に放り込まれるわけなのだから、退職後にうつ病を発症してしまう人が出てくることは、やむを得ないと言わざるを得ない。
ここで一口に「うつ病」と言っても、実はその要因はさまざまある。自衛官に多いうつ病は、前出の島野氏がまさしくそうだが、「真面目で几帳面な人間が陥りやすいうつ病」だ。
慣れない環境の中で無理に無理を重ねた結果、気がついたときには心と身体が限界を迎えてしまうのだ。そのような人たちにとっては、「自衛官としてやってきた」という誇りが、かえって自分を追い詰めることもある。
自衛官というのは得てして、「弱さ」を見せることが苦手であり、「強くある」ことをよしとする人種だからだ。しかもそういう人ほど、「自衛隊ではこれでよかった」と考える傾向にもある。
下園氏は言う。「自衛隊のやり方で突っ走っても、うまくいかないことはたくさんあります。たとえば車で走行するとき、高速道路を走るときと砂浜を走るときには、その走らせ方は異なりますよね。仕事も同じです。自衛隊と民間の仕事は同じ『仕事』ではあっても、意識的に行動を変える必要があるのです」