コロンビア大学学長も「辞任すべき」
こうして、自分たちの授業料を巻き上げて戦争ビジネスへの投資が行われていることに危機感を抱く学生らが大学に情報公開を求めたわけだが、平和的なデモが一変したのはトランプ氏と懇意の議会下院議長(共和党)がコロンビア大学を訪れたことがきっかけだった。
キャンパスを訪れたマイク・ジョンソン議長は、「反ユダヤの抗議行動は許されない。もしやめられないのなら学長は辞任すべきであり、ユダヤ系の生徒を守れないなら、学校への助成金を打ち切る可能性もある」とスピーチ。時期を同じくしてネマト・シャフィク学長も公聴会で吊し上げにあい、「反ユダヤ的な抗議行動は厳しく取り締まる」と、約束をさせられる形になった。
それに憤った学生らが学内にテントを張り、抗議を始めたのが今回の大規模逮捕劇につながったのである。
ニュース映像では警官が力ずくで学生を地面に押し倒したり、ペッパースプレーを吹き付けたりしていて暴徒化する学生を取り締まっているが、日本の警察のように丸腰の相手に対して説得するといった選択肢は彼らにはない。警察の過剰な暴力は日常茶飯事なので、警察を信頼していない学生たちがヒートアップしたことが数百人もの逮捕者を出したともいえる。
エリート大学生に反感を持つトランプ支持者たち
そして、この衝突を格好のネタにしているのがトランプ派共和党だ。党のスローガンである「法と秩序」を引き合いに出し、「民主党やバイデン大統領は若者に甘く、事態を収拾できないダメな政権だ」と攻撃している。トランプ氏への山盛りの刑事告訴を見ているとちゃんちゃらおかしいが、それは棚上げだ。
今回の大統領選では、トランプ氏はメキシコ国境の移民問題を最前面に掲げ、「バイデンは不法移民を取り締まれない。犯罪者の集団である不法移民がこれ以上入ってきたら、アメリカの治安は崩壊するだろう」と脅しをかけている。不法移民が犯罪を持ち込んでいるという根拠はどこにもない。しかしトランプ支持者にとっては、特に南米からのマイノリティ移民の大量流入だけで十分脅威に感じるのだ。
大学生の抗議運動も同じで、特に地方に住むトランプ支持者は「何もわかっていないガキが」とエリート校の学生に反感を持っている。そんな学生たちが、パレスチナという非白人の国に味方し、暴力に訴えているという構図を共和党はどんどん拡散したがっている。驚いたことに共和党議員の中には、この学生運動は反ユダヤどころか、テロを容認する親ハマス運動だと激しく糾弾する者さえいるほどだ。
一方、バイデン大統領は一連の大学デモに関してほぼ沈黙を守っている。唯一の発言も「(学生は)混乱を引き起こす権利はない」と通り一遍のもので、若者の間には失望が広がっている。