ハーバード、ペンシルバニアの学長が相次いで辞任

学内でのユダヤ差別は許さないと、MAGA(トランプ)派の保守共和党員が中心になって、ハーバード大学、ペンシルバニア大学、マサチューセッツ工科大学という3つのエリート校の学長を呼んで、公聴会を実施したのだ。

名目はユダヤ差別問題だが、そこには裏がある。

白人至上主義的なMAGA議員らはかねてから、大学のダイバーシティ化を良しとせず、これまでさまざまな介入をしてきた。ダイバーシティは黒人学生を守るためにあり、他の人種を犠牲にしているというのが言い分だ。この場合、パレスチナ人は黒人の側に入る。ちなみに呼ばれた学長は全員女性で、ハーバードは初めての黒人学長だった。このあたりにも、彼らの意図を感じさせる。

公聴会ではどの学長も、反ユダヤは容認できないが言論の自由は守るべきという立場を貫いた。ハーバードのクローディン・ゲイ学長は、こうした中でヘイトスピーチなどの問題が生まれていることも認めた。それに対し「ユダヤ差別を放置している」と批判が浴びせられ、ゲイ学長はその後辞任に追い込まれる。同席したペンシルバニア大学のリズ・マギール学長も辞任した。

その際、公聴会で2人を締め上げたエリス・ステファニック下院議員は「2人堕とした」とSNSに投稿した。

「自分たちは反ユダヤではない」

共和党議員らは、親パレスチナの抗議行動はすべて、反ユダヤと決めつけている。ユダヤ人の力が強いアメリカで、「反ユダヤ」のレッテルを貼られることは、共産主義者と同じくらい政治的にネガティブなインパクトだ。

それに対し学生らも負けていない。コロンビア大学正門前の抗議行動では、「自分たちは反ユダヤではない。反シオニズムだ」というビラを配っていた。

ある学生はこう説明してくれた。

「反ユダヤは特定の民族を攻撃するもの。自分たちが抗議している相手はユダヤ民族ではなく、イスラエルを動かすシオニズムだ」。シオニズムはイスラエル建国と維持の基礎となっている、19世紀末に生まれた政治思想である。

この学生は、「私たちを反ユダヤと決めつけるのは、黙らせるための政治家のレトリックにすぎない」と苛立ちを露わにする。また当のユダヤ人の中にもこの意見に同調する人が少なくなく、フォーダム大学での抗議行動には、黒服に髭を蓄えたユダヤ教徒も駆けつけた。「私たちの民族の宗教や歴史を、ガザ虐殺の言い訳に利用するのは許されない」と強い言葉で語ってくれた。

抗議の相手は決してユダヤ民族ではない。シオニズムを基礎としてパレスチナ人に対し人種隔離政策を行い、ガザ地区で虐殺を繰り広げているイスラエル政府とそこに紐づく既得権益だ。

筆者撮影
フォーダム大学のデモ参加者の中には、イスラエルの苛烈な侵攻に反対するユダヤ教徒もいた