太陽風が届く“果て”の温度は約3万~5万度に達している
2012年、NASAの惑星探査機ボイジャー1号がへリオポーズを通過したというニュースが流れました。2018年にはボイジャー2号もへリオポーズを通過しました。これら2機の探査機は、太陽の影響範囲を超えて飛び続けているわけです。
では、このへリオポーズではどんなことが起きているのでしょうか。実際にそこを通り抜けた2機のボイジャー探査機には、プラズマ粒子のエネルギーや運動方向の観測を行うための観測装置が搭載されていました。残念ながら1号に搭載されていた装置はへリオポーズ通過時には動かなくなっていましたが、2号の装置は打ち上げから40年以上も動き続けていて、貴重なデータを私たちに届けてくれました。
ボイジャー2号のデータ(※①)によればへリオポーズ周辺では太陽風の速度はほとんどゼロになっていました。太陽風が、星間空間に満ちるガスと衝突してせき止められている証拠です。まさにここが太陽風が届く果てであることを表しています。その場所の温度はおよそ3万~5万度に達していました。これは事前の理論的な予想よりも2倍も高い温度でした。
※① Richardson, J.D., Belcher, J.W., Garcia-Galindo, P. et al. Voyager 2 plasma observations of the heliopause and interstellar medium. Nat Astron 3, 1019-1023 (2019).
へリオポーズを通り抜けていくボイジャー2号は、宇宙線の量がグッと増えていく様子も観測しました。宇宙線は太陽風よりもさらにエネルギーの大きな放射線で、太陽系の外の宇宙のいろいろなところで発生しています。へリオポーズを抜けると宇宙線が増えるということは、つまり太陽風が宇宙からの高エネルギー宇宙線を遮ってくれていたということです。遮っている宇宙線の量は全体の4分の1程度で、完全にシャットアウトしてくれるわけではありませんが、太陽系を高エネルギー宇宙線から守ってくれていると言ってもいいでしょう。逆に、そこを飛び出していった2機のボイジャー探査機は、そのバリアなし孤独な旅路を続けていくことになります。