「不安にも種類があるんや」と気づいた

7月23日には松竹芸能を退所することを発表しました。

僕はその辺りのできごとをあまり覚えていません。当時の自分の精神状態や、身に起きたことがらは覚えています。ただ、それが人間の強さなのか、防御本能なのかわかりませんが、本当に辛かったはずのいろいろなできごとが「ポコっと」記憶から抜け落ちているのです。

そして、振り返ってみて、「不安にも種類があるんや」と気づきました。

将来に対する不安が投資に向かわせたことは説明しましたが、それよりも大きなものは、「未知のこと」に対する不安だと思ったのです。

投資トラブルを隠しようがないとわかったとき、僕はご飯が食べられなくなりました。食べてもすぐ、誰にもいわずにトイレに駆け込んで、すべてを戻してしまいます。固形物はサプリメントバーも受けつけません。栄養補給ゼリーでなんとか体調を保っている状況です。体重も13kg落ちました。

それが、報道された途端に食べられるようになりました。まだ、体重は落ち続けていましたが……。

そこを自分なりに俯瞰してみると、僕の不安の中心にあったのは「記事になるという現実」でした。

どういう報道をされるか、どんなトーンで書かれるか? そこが未知数だったからです。「未知の不安」にビビっていたのでしょう。記事が出て「ついに白日の下にさらされたな」と観念しました。それでも、逆に自分の気持ちは落ち着きました。

報道で「自分がどこまで落ちたか」を刻み込むことができた

ただ、どうしてもやりきれない思いをしたのは、「木本は仲間たちを騙したサギ師だ」とか、「後輩に30万円を持って来させて、強引に投資させた」などという事実無根の記事でした。僕は「投資に興味がある仲間」と交流を深める中で、こんな投資がいいんじゃないかという話をトコトンしていました。ですが、興味がない人を巻き込んで、「ええ投資話があるで」と肩を叩くようなまねは絶対にしていません。

木本武宏『おいしい話なんてこの世にはない どん底を見たベテラン芸人がいまさら気づいた56のこと』(KADOKAWA)

そうした憶測の記事も含めて、「こんな感じで書かれるんや」「自分の状況はこうなんや」という事実を知る。報道のすべてが正確ではないとしても、そこを含めてどんなトーンなのかを把握できました。それによって、改めて自分の状況を客観視できたのです。別の言葉を使えば、「自分がどこまで落ちてしまったか」を、自分の中に”刻み込む”ことができたのです。

多くの人は「騒動が発覚したときが不安のピークでしょ」と思われるかもしれません。

もちろん、それはそれで大変ではありました。自宅前にはマスコミが押し寄せ、家から一歩も出ることができませんでしたから。

ただ、「自分がどうなるかわからへん……」という不安が一番怖いことなんだ、と認識できたのは収穫でした。発覚前の数週間ほど、僕を極限の不安に陥れた状況はなかったからです。

僕たちTKOは、2023年の1月に活動再開会見を行いました。会見の前も不安はありましたが、それは「前向きな不安」「将来への不安」でした。「未知の不安」を経験した僕にとって、ビビるほどの事態ではなかったのです。

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