地下鉄駅から徒歩10分圏の人口カバー率13%は主要先進国で最低
「機能的都市圏」とはOECDとEUが連携して国際比較のために共通の基準で設定している都市圏域であるが、そのイメージをざっくりとつかむため、図表4には、東京、ロンドン、ニューヨーク、パリの圏域マップを掲げた。
「人口規模」では東京23区は965万人、パリ市225万人であるが、「機能的都市圏」では東京3647万人、パリ1124万人であり、機能的都市圏のほうが4倍前後のずっと大きい範囲となっている。東京の機能的都市圏は間違いなく世界最大である。
上で触れた世界の地下鉄の路線延長や利用客数、あるいは公共交通機関の便利さ満足度のデータは基本的に東京23区やパリ市といった行政区域の比較であるが、厳密な比較は世界共通基準の機能的都市圏で行う必要がある。
図表3のデータにもう一度戻ると、いずれの都市においてもバス交通のカバー率は地下鉄・市電交通のカバー率を大きく上回っている。公共交通全体のカバー率はバス交通のカバー率とほとんど重なっている。
公共交通全体のカバー率が最も低い都市はメキシコシティーの27.5%であり、これにニューヨークの56.3%が続いている。主要先進国の中ではニューヨークの低さが目立つが、米国ではマイカー利用が多いせいであろう。
一方、OECD諸国における公共交通のカバー率はおおむね7~8割を越えている。
軌道系の公共交通のカバー率には都市により大きな差があるが、それをバス交通が補完するので、バス交通を含んだ公共交通という点では、各国の違いはそれほど目立たない。バス交通は先進国であればどこでもそれなりに発達しているといってよかろう。
なお、東京の公共交通全体の人口カバー率は82.4%とOECD平均の84.8%を若干ながら下回っている。
都市間で差が目立つのは軌道系の公共交通カバー率である。主要先進国(G7)と韓国の首都における「地下鉄・市電駅」カバー率は高い方から以下である。
2.ソウル(42.7%)
3.パリ(41.1%)
4.ニューヨーク(30.7%)
5.ローマ(30.6%)
6.ロンドン(21.1%)
7.東京(13.6%)
何といっても東京が最低である点が目立っている。効率的なインフラ配置のためコンパクト・シティーが目指されているが、東京は軌道系の公共交通についてはこの点で大きく後れを取っており、都市内交通が便利な都市とはとても言えない。
その要因としては、東京が巨大都市すぎるからであろう。「大男総身に知恵が回りかね」といったところである。
他方、軌道系の公共交通のカバー率が高いのはブリュッセルの79.9%、チューリッヒの72.4%、ウイーンの63.1%などであり、これらはコンパクト・シティーならではの便利さを発揮している都市と言ってよかろう。
23区内の東京都民にとっては、おそらく公共交通に不満は少なかろう。しかし、南関東全体に広がる機能的都市圏の東京人にとって公共交通は便利とは言えず、特に地下鉄・市電といった軌道系の公共交通ではかなり不便である。地下鉄・市電一本で目的地に到達できる所に住んでいる人口は実は他都市と比べかなり少ないのである。
SDGsの理想を目指すためには、軌道系の公共交通が不便な東京周辺部へとさらに地下鉄網を延伸していく必要があろうが、東京は都市圏域がすでに考えられないほど巨大であるため、投資効率はどんどん落ちていくだろう。
そのしわ寄せが財政面や他のインフラ投資の制約となってあらわれ、別のSDG項目にマイナスが出かねない。であるとするなら、やはり東京への一極集中を抑制するとともに、多極分散型の東京圏の形成を目指しコンパクト・シティーの連合体に東京を改造するという従来からの対策を進めていくしかないのではなかろうか。