細胞が若返る飲み薬

この実験では、若返るだけでなく年寄りの血液が入ったマウスが老化してしまったことから、血液に含まれている成分によって老化がコントロールできるのではないか、という概念が生まれて一気に研究に弾みがつきました。

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老化は治療できる、ならば、どうすればいいか。そう考える研究者が増えてきたのです。

続いて2016年に出てきた研究成果も驚きでした。

スペイン人の研究者イズピスア・ベルモンテ教授が、先述の山中4因子を用いた細胞のリプログラミングによって、マウスの寿命を延ばすことに成功します。

そして前述のシンクレア博士たちの画期的な成果が生まれます。2021年、神経の若返り効果を山中3因子(Oct3/4、Sox2、Klf4)を使って実証し、さらに2023年、山中3因子の代わりに化合物のカクテルを使い、同じような老化した細胞の若返りを実現しました。

化合物で細胞機能やエイジング・クロックが若返る――つまり、細胞が若返る飲み薬の実質的な可能性が証明されたのです。

ハピネスも老化を左右する

ここで精神面の話にも、少しだけ触れましょう。

あなたは、自分を幸せだと感じていますか?

それとも少しばかり不幸かも、などと思っていますか?

実はそれも、寿命に関係してきます。

長寿の人は、周囲との人間関係が良好で、日々の中で幸せを感じることが多い。逆に、平均寿命を超えられない人は、ひとりぼっちで孤独な人が多く、幸せを感じることが少ない。そんな研究成果が論文で示されています。

実際にマウスレベルの実験では、もっと恐ろしい結果が判明しています。集団で飼っているマウスと、個飼いの単独マウスでは、明らかに寿命が違ってくるのです。一匹だけで生きているマウスは、とても短命です。このような研究成果は、社会的ストレスと社会的地位の低さが哺乳類において寿命を縮め、心血管疾患(CVD)のリスクを増大させることを示唆しています。