なぜ、人は老化現象を当然のこととして諦めてしまうのか。生命科学者の早野元詞さんは「老化防止や若返りは生物学の重要なテーマ。それもアンチエイジングではなく、老化を治療して若返るという“リプログラミング”の方向に進む」という――。

※本稿は、早野元詞『エイジング革命 250歳まで人が生きる日』(朝日新書)の一部を再編集したものです。

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写真=iStock.com/Kuntalee Rangnoi
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老化防止や若返りはビジネスにもなる

「老化って、何?」
「健康って、どういうこと?」
「人間の寿命が100歳を超えて延びていったら、どうなる?」

アメリカで研究していたときに、幾度となくこのような会話が飛び交いました。研究室ばかりでなく、カフェやクラブでも、話し好きが集まるといつしかこんな話題になるのです。

決まって最後は、「なぜ、生きるのか」。なぜ、僕らは死ぬ存在なのに、生きるのか――。明るく白熱したものです。こうした死への意識、それは時間への意識に他なりません。

地球上の生物の中で、時間を意識している生き物は、おそらく人だけです。

しかもその意識は人によって大きく異なります。たとえば、病気でも事故でも九死に一生を得るような体験をした人は、朝目覚めただけで、かなりの幸福感を抱くことでしょう。逆に、時間は無限に続いていくかのように今日の日を生きている人もいるでしょう。

人によって、全く異なるのが、時間の観念です。

時間に高い価値を見出している人にとっては、老化防止や若返りは哲学であると同時にビジネスにもなります。人生において、必要不可欠なものだからです。

マーケティングの大家、ピーター・ドラッカーの言葉を借りれば、ビジネスとは価値と対価の交換であり、価値を決めるのは対価を支払う顧客である。ゆえに、人生の時間の価値への投資(=ビジネス)が、老化研究を刷新する可能性が大いにあるのです。

すでにアメリカでは、老化防止や若返りは、生物学のテーマであると同時にビジネス分野の重要なキャラクターを担いつつあります。

30億ドル集めたアルトス・ラボの起業

アメリカに、「アルトス・ラボ(Altos Labs, Inc.)」というベンチャー企業があります。若返りをテーマにしたライフサイエンス企業です。

2021年秋の起業時には30億ドル、すなわち日本円にして約4500億円もの資金が集まりました。通常のベンチャーであれば、スタートアップに集まる資金は数千万円レベルといわれます。特に有望視されるベンチャーでも、数億円にとどまります。しかしアルトス・ラボには、途方もない資金が集まったのです。

なぜ、とんでもない期待を集めたのか。

資金提供者にはアマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏も名を連ねています。ベゾス氏は1964年生まれ、つまり還暦間近であったといえば納得する人も多いのではないでしょうか。彼らのようなシリコンバレーの超富裕層にとって、「若返り」は何よりもの望みなのでしょう。

人が決して越えられない「不老不死」の壁を、最先端の科学で乗り越える。アルトス・ラボの研究室は、そんな近未来を現実のものとして見据えています。