平均身長170cmでも実際はさまざまな人がいる

ここでは、「高校時代に習っていない」「忘れてしまった」という方たちのために、そもそも「正規分布」とは何なのか、という部分から解説したいと思います。

例題のようなシチュエーションを想像してみてください。

【例題1】
テレビ制作会社のリサーチャーとして働くDさん。あるとき「身長190cm以上の一般人男性を探してほしい」という依頼がきましたが、日本人の成人男性の平均身長は約170cmです。しかも、依頼側は「すぐ見つかるでしょ」と短い納期設定で仕事を発注してきます。
納期の交渉をするためにも依頼の大変さを伝えたいところですが、どうしたらいいでしょうか?

身長190cmの日本人と言われて思い浮かぶのは、バスケットボールやバレーボールのアスリートなどです。平均身長の高い北欧ならまだしも、日本の街中からそんなに背の高い人を見つけるのは容易ではありません。

しかし、「容易ではない」という状況を数値化できなければ、納期交渉をするのは難しそうです。そこで活躍するのが「正規分布」の考え方になります。

日本人の成人男性の平均身長を総務省のホームページで調べてみると、おおむね170cmほど。ざっくりとした計算を行いたい場合は、この数字を使えばよさそうです。

しかし、実際は、会社の同僚や取引先の担当者を思い浮かべてもわかるとおり、さまざまです。身長は年代によっても異なり、背の高い人から小柄な人まで、あらゆる人がいます。

このような状況を、統計学では下記のような「正規分布図」で考えるのです。

図表2は、日本の成人男性の身長データを曲線として表したものです。

横軸が身長の高低、縦軸が人数を示しています。点線が引かれている中心が、平均身長である170cmです。曲線を見ると、左側から中心にかけてカーブを描くように盛り上がり、中心を過ぎると同じように下降しているのがわかると思います。

つまり、170cmの人より175cmの人のほうが少なく、180cmの人となるとさらに少なくなっていく、ということです。

実際のところ、私たちが日本で暮らしている感覚としても、身長170cm前後の成人男性が多く、180cmや185cmになると「背が高いね」と周りから言われる、といったところではないでしょうか。

正規分布なら目標達成の難易度も見える

統計の世界においては、身長や体重、株価の上下、自然現象の発生度といった世の中の多くの事象が、同じような曲線パターンを描くと分析されています。

細かい計算式は省略しますが、膨大なサンプルがあるデータを並べると、不思議とこのような分布になっていく、という規則性があるのです。

これが「正規分布」の基本的な考え方になります。

上記のような正規分布表を見せれば、クライアントにも身長190cm以上の成人男性がいかに少ないかを視覚的に示すことができます。ものわかりのいい担当者なら、これだけで納期を伸ばしてくれることもあるでしょう。

しかし、番組の撮影まであまり時間がない場合、クライアントは何としてでも短い納期で190cm以上の人を見つけてほしいと考えるはずです。強気に納期を交渉するには、具体的な数値を計算する必要があります。

そこで使えるのが、次の項目で解説する「標準偏差」です。

正規分布は、標準偏差と組み合わせて考えることで初めてその力を発揮します。

標準偏差を理解すれば、冒頭から問いかけている「みんな」の正体も、ようやく暴くことができるのです。

さらに、正規分布の考え方を応用すれば、仕事のチームや取引先といった比較的小さな規模の問題も、数字に惑わされずに考えることができます。

大げさに言ってしまえば、正規分布は、万物の事象に活用できる最強の法則ともいえるのです。