新商品やサービスのターゲット設定をするとき、数値はどう用いるべきか。経営コンサルタントの斎藤広達さんは「例えば住宅相談に来る6人の平均年収が700万円だった場合、実際にその中に年収700万円の人がいるとは限らない。少ないサンプルで計算した『平均』をビジネスプランのベースにしてしまうと、まったく効果のない施策になってしまいかねない。世の中には平均値が溢れているが、ビジネスパーソンなら平均値を見たときにまず、『その数字は偏っていないか』『サンプルの数は十分か』などを疑うべきだ」という――。

※本稿は、斎藤広達『頭のいい人が使っているずるい計算力』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

電卓を見せて顧客に説明をする不動産会社の人
写真=iStock.com/Perawit Boonchu
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「みんな」に踊らされないための平均値との付き合い方

社内では、「多くの」「みんな」「いつも」「平均的に見て」といったセリフが当たり前のように飛び交っています。一見すると、これらの言葉には説得力があるように感じられますが、はたして本当にそうでしょうか。

おそらく、「ほかの言葉はあいまいだけど、平均だけは計算して出しているのだから、ある程度信用できるはず」と考える人もいるでしょう。

本当に「平均」は正しいのか、考えてみます。

【例題1】
テレビで、あるダイエットサプリを使った5人の体験者が効果を語る、というCMが頻繁に流れているのを見たAさん。CMによると、サプリを使った結果として全員の体重が平均で5kg減ったらしく、試してみたいと思いました。
でも、心のどこかでは「本当に正しいのかな?」という疑問も捨てきれません。
このサプリは本当に効果があるのでしょうか。

体験談からサプリの効果を確かめるには、5人の体重の増減を確認します。

Aさん:-4kg
Bさん:-3kg
Cさん:-6kg
Dさん:-5kg
Eさん:-7kg

上記のように体重が変動していた場合の平均は、

4kg+3kg+6kg+5kg+7kg=25kg

25kg÷5人=5kg

よって、-5kgの減量に成功しているとわかります。

これなら、確かに「みんなちゃんと体重が減っているから、効果があるのかも」という気持ちになるかもしれません。

しかし、もし5人の体重の増減が以下の結果だったらどうでしょう。

Aさん:+1kg
Bさん:-7kg
Cさん:+2kg
Dさん:-4kg
Eさん:-17kg

これでも平均値は同じ-5kgです。

ですが、内訳を見るとEさんが-17kgというすさまじいダイエットに成功している一方で、サプリを飲んでいても体重が増加している人が2人もいます。

これでは、「必ず効果が出る」とは言えません。同じ平均-5kgでも、まったく印象の違う結果になるパターンもあるのです。

これが平均の歪みであり、多くの人が騙されるポイントです。