更地にしたら価格がつけられなくなる

つい先日、筆者は自著の読者より、筆者が暮らす町に所有している土地の処分を検討しているとのメッセージをいただいた。その読者は長年放置しているというので、まずは筆者が現況を確認するためにその土地へ足を運んでみると、そこには近隣住民の小さな菜園が作られていた。

近くの別の区画の菜園で作業していた男性に話を聞くと、読者の所有地を耕作しているのは自分だという。その回答は悪びれた様子もない。もしその土地を誰かに売却するのであれば、畑はすぐに撤去するという。そこで、この土地を買う意思はないかと尋ねてみたところ、土地は他にもあるからとにべもなく断られてしまった。

「他にもある」などと言っていたが、その土地も男性が所有しているわけではなく、これまで通り無断で耕作して利用するつもりなのだと思われる。そもそも購入する意思がないから無断で耕作しているともいえる。放棄された区画を、近隣住民が菜園用地や駐車場として利用するケースは決して珍しい話ではない。

筆者撮影
宅地所有者に無断で作られていた菜園。互いの暗黙の了解のもと利用されている事例もある。(千葉県横芝光町木戸)

宅地として需要がないのなら、菜園用地や駐車場用地として売却を考えても、それはもはや価格がつけられるような市場ではなくなっている。

所有者の同意のうえで菜園や駐車場として利用し、その代わり所有者に代わって土地の管理を行う住民も多い。購入してしまえば管理責任や固定資産税が発生するのだから、そこまでして買うほどの強い動機は近隣住民にもないのである。

5万円で買った30坪の土地は、もともと700万円だった

限界分譲地は、中古住宅は安いなりにも市場が形成されているが、更地の市場は今や完全に破綻している。

ほとんどの空き地には膨大なライバル(売り手)が存在するために、買い手にとってはどうしてもその土地を選ばなくてはならない理由に乏しく、他より価格が高かったり、条件の悪い土地は買い手の候補からあっさりと外されてしまう。

今や限界分譲地の価格を決めるのは、何よりも売主の考え方である。冒頭で筆者は、自宅の向かいにある土地を5万円で購入したと書いたが、これはもともと、前所有者の方が1988年に700万円で購入したものだ。

その後所有を続けていたものの、土地に関して不愉快な思いをさせられた経験もあり、子供にも遺すわけにはいかないということで、ほぼ無償譲渡に近い価格で処分することを決意したものだ。

筆者撮影
筆者が5万円で購入した土地。前所有者は投機目的で購入しており、1988年の分譲販売時から現在まで、家屋が建てられたことは一度もない。(千葉県横芝光町)

相続で取得したのではなく、購入者自身がこうした決断を下せる例は珍しいかもしれない。自分が5万円で購入したから言うわけではないが、こうした決断を早めに下すことができた人は幸運であろう。無意味に所有を続けている限り、不慮の事態で突然自分の土地が、見向きもされない悪条件に陥ってしまうリスクは常に抱えている。