私の落語「柳田格之進」もアップデートさせた

映画「碁盤斬り」は落語の「柳田格之進」と完全同一展開ではありません。そして、なぜいまをときめく白石監督が「浪人」を取り上げたのか、こちらに関しては推測の域を出ませんが、「今だけカネだけ自分だけ」のこの令和の主流な価値観に対して、草彅さん扮する柳田格之進の姿を通して一石を投じてみたかったのではと感じています。

その姿勢は、かつてこの国で確実に存在していた「潔い武士道」の精神と、またそれと極北に位置する「談志の嫌った女性の犠牲」とのバランスに相違なく、そのあたりのアクロバティック的な差配は、やはり映画館で直接ご堪能くださいませ。撮影現場で草彅さんと「(柳田は)今の世にいない人ですもんね」と交わした会話がまさに象徴的でした。

そして、「変わらなきゃ」を合言葉に、この映画に携わらせていただいたことをきっかけに、私も自分の「柳田格之進」を後半変えて口演するようになりました。

落語ではあっさりしている部分ですが、「草彅さん演じる格之進の切腹」を清原さん演じるお絹が命がけで止めるシーンが、この映画ではCMとしても使われているほどの出色の場面です。両者の覚悟と覚悟とのぶつかり合い、「柳田の武士道を貫く姿勢」とそれに伍するお絹の力強い目に「触発」されたのです。あらゆる邪念を射抜くほどの視線に傍で観ていた私は怖くなったほどでした。そんな気概を持つ高潔な女性としてのイメージが増幅したので、後半の新雪を踏みしめ萬屋宅に向かう格之進に、お絹を同道させてみることにしました。そこで「これからの時代は女が担う」というニュアンスのセリフを格之進に言わせてみることにしたのです。

©2024「碁盤斬り」製作委員会
映画「碁盤斬り」より

いやあ、感動するだけでは片手落ち、やはり「触発」されなきゃです。

くどいようですが、ぜひ映画「碁盤斬り」で皆様方も「触発」されていただきたく存じます。世の中は「触発」されて初めて変わってゆくものなのでしょう。

加藤さんの書いた脚本に白石監督が触発され、映画を撮り撮影現場で私が触発され落語を変えてこの記事を書き、映画館で観たお客様が触発されて、時代がじわりと変わってゆくに違いありません。5月17日公開です。お楽しみに!

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