女性が活躍する令和の撮影現場

こんな思い出を胸に今回の現場に挑みました。「足手まといにならぬよう」と幾分こわばり気味だったのですが、実際は「拍子抜け」でありました。

まず、女性スタッフが多いのです。

そしてその女性たちが、おびえることなく、明るく振る舞っていました。

「この次の瞬間に何が起きてもその現場での主導権は自分にある」というかのような強制されないキビキビさはとても微笑ましいものでした。

スタッフさん同士が信頼関係で満ち溢れていて、仲良くなった音声担当の人とは「こないだ、談春さんと同じ現場でしたよ」という軽い会話や、小道具の人とは落語の話なども交わせる感じでした。スタッフさんにかような空気感がみなぎっていると、役者さんにもそれが伝わるのでしょう。

とにかく主役の草彅さんがこっちがかえって恐縮するほどの気さくさで接してくれたものです。草彅さん、娘役の清原果耶さん、萬屋の主役の國村準さんらが焚火を囲んでいると、「談慶さん、一緒に温まりましょうよ」と声をかけてくれましたっけ。

休憩時間では、「いやあ、談志さんってどんな人でしたか」などという話で持ち切りとなりました。

そして休憩が終わり、白石監督から「本番!」という声がかかるとその声に合わせて草彅さんも「本番!」とかぶせてきました。

この絶妙の間こそが監督と主役との信頼関係の象徴のようにも感じ、「緊張はするけど緊張しすぎて固くならないようにね」という優しい響きそのものでありました。

「碁盤斬り」のワンシーン
©2024「碁盤斬り」製作委員会
映画「碁盤斬り」より

いまのやり方のほうがいい映画ができるはず

30年前の自分が俯瞰で見たら驚くことばかりの連続で、実に有意義な時間となりました。

しみじみとあの頃を振り返りますと、まさに「不適切にもほどがある」を体現するような現場だったと感じています。

でも決して不快で蓋をしたいほどの思い出ではないことに改めて気づきました。

30年前の現場のあのカメラマンさんたちも「いいものを作ろう」としていまでいう「パワハラ」的な罵声を発したのでしょう。

過去を断罪するのではなく、同じくパワハラ肯定主義の渦中で下積みを重ねてきた白石監督が「いまの目の前のやり方のほうがむしろいいものを作りやすいのは」と様々な模索のあと確信したのではと、推察するのみです。

その具体的な実例こそ、草彅さんとの「本番! コミュニケーション」にあったのだとにこやかに今振り返っています。