タニマチの変化も
林医師の著書には、
「相撲社会の健康問題を考えるとき、一番の問題は親方衆である。おそらく相撲協会健康保険の大半は親方衆のために使われていると言っても、過言ではないだろう」
という一節がある。
大相撲の親方衆は、引退しても現役時代と同じ調子で暴飲暴食をする。引退したから運動量は急激に落ちているにもかかわらず、飲み歩いたり麻雀をして大量の夜食を摂取する。
そうした生活習慣を続けるうちに、糖尿病、痛風などの代謝性疾患が悪化するのだ。
サラリーマン時代、筆者は力士懸賞金を相撲協会に持っていく担当だったが、事務所では濛々たるタバコの煙の中で、親方衆が真っ昼間から雀卓を囲んでいた。そうした親方衆が今では全員故人だ。要するに「引退後の不摂生」が、力士寿命を縮めているのだ。
昔からのタニマチのひとりはこう話す。
「昔は力士が30人以上、部屋付きの親方もいる大きな相撲部屋があった。そういう部屋のタニマチには、立派なお医者さんがいて親方に栄養指導をしたし、師匠も弟子の親方に健康管理をうるさく言ったものだが、今は親方1人、弟子数人の小部屋ばかりになり、タニマチもベンチャー企業が多くなって親方や力士と毎晩飲み歩くようになった。健康管理ができていない部屋が多い」
「力士の短命」については林医師の時代から指摘されていたが、一向に改善されていない。
相撲界の将来のためにやるべきこと
この間、スポーツ界の意識は大幅に変わった。
大谷翔平のように食生活からトレーニングまでを自己管理するのが「正しいアスリートの姿」と言われる中で、巨大なカロリーを野放図に摂取した挙句に短命に終わる力士の姿は、若者に「憧れの存在」と映るだろうか?
もちろん力士の中には近代的なトレーニングを導入したり、プロテインを摂取するなどアスリートらしい練習を取り入れている人もいるが、それは少数派だ。
大相撲の力士数は1990年代には900人を超していたが、今年の春場所時点では594人と過去最少になった。遅きに失した感はあるが、日本相撲協会は巨大化する力士と親方衆の健康管理に本腰を入れるべきだろう。