不買運動が実際に影響を及ぼしたケース

不買運動の話に戻ろう。冒頭で影響は限定的と述べたが、必ずしも不買運動自体が無益なものというわけではない。

例えば、中国市場においては、不買運動が企業の業績に大きな影響を及ぼしている。反日意識が高まると、日本製品の不買運動が起きて、実際に売り上げが落ちてしまうことも多々ある。昨年は、福島第一原子力発電所の処理水の海洋放出により、SNSで日本製化粧品の不買運動が起き、資生堂や花王など、大手の化粧品メーカーの売り上げが落ち込んだ。

スイスに本社を置くネスレは、キットカットなどのチョコレートの原料であるパーム油の調達先が、熱帯雨林を違法伐採して開発されていたことから、2010年に国際環境NGOのグリーンピースが批判キャンペーンを行った。それにより、多くの消費者から批判が集まり、不買運動へと発展し、ネスレ社は調達先を変更するという対応を行っている。

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日本で不買運動が一大ムーブメントにならない理由

上記以外にも、不買運動が企業の業績や行動に影響を与えた事例はいくつも存在する。

しかしながら、日本においては、本当の意味での「不買運動」はなかなか起こらない。たとえ、起きても企業の業績にダメージを与えたり、企業の行動を変えたりするまでには至らない。

争いや対立を避けたがる日本人の国民性や、国民みずから行動を起こさずとも現代の平和な国家が成立した歴史性に負う部分も大きい。

さらには、人々に政治的に影響を及ぼす、オピニオンリーダーやインフルエンサー、団体が不在であることも大きい。

海外であれば、政治家に限らず、ミュージシャンや俳優、アスリートなどのセレブリティが政治的な発言を行い、それが人々に影響力を及ぼすことも多い。

日本でも2020年、検察庁法改正案に際し、複数の芸能人が反対意見を表明したが、賛同よりは批判意見のほうが目立ち、結局は尻すぼみに終わっている。

また、人権侵害に遭った被害者が、野党や人権団体と連帯することもあるが、「政治に利用されている」あるいは「政治を利用している」として、批判されたり、冷ややかな目で見られたりすることも多い。