「#不買運動」はただのお祭り
2つめの間接的な影響のほうが、直接的な影響よりも大きいと言えるが、それでも企業に与えるダメージは限定的である。SNS上で炎上したとしても、波及力には限界がある。不買運動がメディアで取り上げられることもあるが、せいぜい「こたつ記事」レベルにとどまるのが一般的だ。
冷静で賢明な消費者であれば、直接面識もない第三者のSNSへの投稿や、こたつ記事に影響されて行動を変えたりはしないだろう。実際、筆者もネット上の「不買運動」について企業から相談を受けた際には、「真剣に取り合う必要はない」と答えている。
ネット掲示板「2ちゃんねる」の全盛期に、多くのスレッドが立って話題が盛り上がることを「祭り」と呼んでいたが、まさに、いまのSNSの不買運動も一種のお祭りのようなもので、同じ話題で盛り上がって楽しむこと以上のものでも、以下のものでもない。
筆者は、いなば食品の「ライトツナ」や缶入りのカレーシリーズを定期的に購入しており、同社に対しても比較的良いイメージを持っていた。今回の一連の不祥事を知って「しばらく買うのをやめようかな」と思ったりはしたが、それはあくまでも筆者が同社の行動を見てそう判断したことによる。もちろん、SNSで不買運動を呼びかけるつもりもない。
企業がされると本当に困ること
企業が本当に恐れているのは、「(これまで買ってくれていた)顧客が離反すること」だ。さらに言えば、利害関係者(ステークホルダー)が離反することである。
具体的には、以下のようなことが挙げられる。
1.顧客が離反する
2.従業員が離職する
3.投資家・株主が資金を引き上げる
4.取引先が離反する
5.(メディア報道、世論の批判により)企業の評判が低下する
これらが相互に影響を及ぼし合い、負の連鎖が起きてしまうと、企業は危機に陥ってしまう。まさに、中古車販売大手のビッグモーターが昨年起こした一連の不祥事では、それが起きた。
「#不買運動」と投稿することは簡単にできるが、本当に問題のある企業に影響力を行使したいのであれば、「利害関係者」として自身の役割に見合った行動を取るほかはない。
具体的には、顧客として企業の問い合わせ窓口から連絡を入れる、法令違反を行っているのであれば監督官庁に連絡する、投資家として株主総会に出席して発言したり、議決権を行使したりする――といったところだ。
「それで企業の態度が改まるのか?」という疑問もあるかもしれないが、複数の人や組織が動けば、企業側も対応せざるを得なくなってくるし、対応できなければ負の連鎖が起きて、経営難に陥ってしまう。