経営者、マネジャー層は必見のYouTube動画
トヨタが日本を代表する企業といえるのは、売上や組織の規模だけでなく、卓越した経営思想によるところが大きい。87年の歴史で培われ、受け継がれてきた経営思想だ。
業種や規模を問わず、企業経営者が参考にし得る点がたくさんあると私は思う。
もともとトヨタは「現場が発する挑戦文化」と「スタッフ陣が先頭に立つグループを重視した安定志向の調整文化」の絶妙なバランスによって成長してきた会社だ。したがって、グループ内には古い体質の会社も見られ、一部の販売会社には家父長制的な経営姿勢やグループ偏重の姿勢も残る。
豊田会長にとって14年間の社長時代は、トヨタグループの古い調整文化と闘い、現場発の挑戦文化を醸成する期間でもあっただろう。特に情報公開の姿勢は、見違えるほど変化した。社内の細部まで見える労使協議会や労使交渉の全容をYouTubeで公開するなど、かつてのトヨタでは考えられないことだ。過去のものから視聴していくと、どの会社にもあるような話し合いの中身が、年を経るごとに質的に変化してレベルアップしていく様がよくわかる。どんな経営書よりも学びが多く、経営者やマネジャー層は必見の動画なのだ。
意思決定のスピードを上げる
ただし、トヨタの10年先を考えると懸念はある。動画で発信するメッセージのなかに、豊田会長を絶対化するような発言が時折見られるからだ。成功のすべては、当時の豊田社長がひとりで成し遂げたかのように聞こえる。しかしトヨタに成功をもたらした数々の施策が、豊田会長ひとりの知恵であったはずはない。
トヨタにはそもそも非常に優秀な人材がそろっている。優秀なスタッフたちの仮説がぶつかればぶつかるほど、意思決定は混迷を極める。豊田会長の果たしてきた役割は、大きな方向性を提示すること、トヨタ哲学の確認、そして最終的な意思決定だったはずだ。
私が専門とする風土改革の最前線では、意思決定スピードが速い欧米企業に負けないために、多数の合意に頼らず意思決定を速めるしくみを働かせる。「衆知を集め、リーダーの役割を担うひとりの人間が決め、全員で推進する」というルールを共有する。ひとりのカリスマに頼っていては人材が育たない。意思決定の役割を果たし、試行錯誤を重ね、数多くの失敗を経験して人材は育つ。意思決定の速い人材が育つ組織風土を築けるか否かで勝負は決まる。