「主権を現場に」はどこまで浸透するか

豊田会長がいう「会社の主権を現場に戻す」は、トヨタを進化させた力の源泉であり、最も大きな役割を果たしたのはお家芸であるカイゼンだろう。トヨタの改善活動が独特なのは、取り組むテーマを選ぶ際に「できるか」「できないか」を判断基準にしない点だ。重視するのは「必要か」「意味があるか」である。

大企業は真面目な従業員が多く、指示されたことをうまく捌く力で仕事をまわしている。上司から指示を受けたらまず「どうやるか」「どう達成するか」を考える。私に言わせれば、思考停止の状態だ。

トヨタにも「どうやるか」と考えてしまう従業員はいる。しかし他社と大きく違うのは「必要か」「意味があるか」と、自分の頭で考える従業員が、間違いなくそれなりの割合で存在することだ。自分の頭で考える従業員を増やし、チーム力を高めていくことが、豊田会長がいう「主権を現場に」の真意だろうと私は理解している。

“現場との対話”は簡単ではない

不正問題を起こした3社では、今後「主権を現場に」を進めて、自分の頭で考える従業員を増やしていくはずだ。万が一、上司から不正な行為を指示されても、「どうやるか」と考えるのでなく、「必要か」「意味があるか」と考えるようになれば、問題が起こることはない。トヨタの現場リーダーがダイハツに入って、風土改革を支援していくことも考えられる。

経営陣が、現場からの情報を待つのではなく、自ら現場に出向いて直接対話することの必要性をトヨタ会長は説く。“現場との対話”を徹底する経営が求められていることは確かだ。

しかし、経営者と無数にある現場が直接コミュニケーションをとる組織運営は実際には難しい。現場第一と言っても、忙しい経営者が足を運べるのは、ごく一部の現場にすぎない。経営者と現場の間にはいくつもの階層があり、さまざまな会議体が情報伝達の役割を担っている。懸念されるのは、会議体によっては短時間で効率よく情報を伝達することが目的化され、重要な生の情報が伝わらない可能性があることだ。