「ちゃんと怒ってほしい」という声もあったが…

「当初は選手が(自分自身の)内側から湧いてくるエネルギーで、自主的に判断できることが重要だと考えました。そのためにどうしたらいいかを模索しながらやっていたんですけど……」

2022年9月、次は金メダルをと挑んだW杯で1勝4敗。1次リーグ突破さえできなかった。パリに向かう道のスタートでつまずいた。

W杯終了後、選手全員と面談した。選手3、4人から「(HCに)もっと言ってほしい」「ちゃんと怒ってほしい」という声が上がった。自ら考えて行動すべきなのはわかっている。でも、できない。選手たちもジレンマに苦しんでいた。

「東京オリンピックから次のステップに上るには、言われたことをちゃんとできる選手から自分で状況判断してそれを遂行できる選手になることが金メダルを獲る鍵だと思っている。だからここを踏ん張ってほしい」

そうやって、自分の考えを一人ひとりに丁寧に説明した。

撮影=遠藤素子
取材に応じる恩塚亨HC。当初は、「女性選手を指導する」ということの難しさに悩んでいたという

「目の前の選手と向き合って、僕が整理したことをただただ誠実に伝えました。わかってもらえたかはわかりません。これは難しいなと感じました」

「相手の気持ちは分からない」という結論

悩んだHCはそのことを少しでも解き明かしたいと、女性の思考に詳しそうな人を訪ね歩いた。女子高校で約40年間教員をしている男性に話を聴きに行った。さらに「大人の女性と対峙することの多い人って誰だろう?」と考えあぐねた末に、「夜のお店の経営者の人」に会いに行き教えを請うた。

「今だから言いますけど(笑)。自分で直接コンタクトを取って会いに行きました。詳しいことは言えないのですが、とても勉強になりました」

出した結果は「答えはない」。

「色んな人に会いましたが、相手の気持ちはわからないってことに行き着きました。そもそも自分の気持ちすらそんなにわからないじゃないですか。自分だって感情がころころ変わる。男女問わず、人間なんてそういうものだと。相手の気持ちを読み取ることも大事ですが、気持ちがわからないのであれば正直に聞けばいい。そう考えました」

わかったつもりになってはいけない、という教訓も得た。選手と対等であろうとする恩塚HCだからこそ得られた貴重な「学び」だった。

写真提供=公益財団法人日本バスケットボール協会
選手たちとハイタッチをする恩塚HC

「主体性を身につけるのが僕らの目的ではない。あくまでも手段なんです。何よりも目の前の試合に勝つことが一番で、そのためにどうしたらいいか? って考えた結果、やっぱり主体性とか内側から湧いてくるエネルギーが必要だよね、となった。一周回って帰ってきた感がありました」