気候変動を止めるために「政治的に導入された」のがEV

3.そもそもEVシフトは無理筋である

実は昨年の世界的なEVブームのおかげで多くの人が忘れ始めているのですが、EVシフトというものはもともと製品的には無理筋な政策だったはずです。

シンプルに考えれば、モビリティの道具としてはガソリン車が一番安価で便利です。わざわざ走行に不安がある製品を割高な価格で買う人は本来ならいません。

そのEVが自動車業界の本命になることが決まったのは、気候変動をなんとしてでも止めないと世界が大変なことになるというコンセンサスができたからです。科学的な議論に基づくと、2030年あたりまでに脱炭素を50%減まで進めないと地球の気温が上がり続ける方向へ進んでしまい、2070年あたりには地球は70億人が住めない惑星になってしまうのです。

50%の脱炭素となると産業界では、電力業界、モビリティ業界、化学業界の3つの業界が大幅に炭素を減らさないと達成できません。EVはその解決策として政治的に導入が決められた商品でした。電力業界はグリーン電力にシフトして、自動車業界は脱ガソリンを進めることで脱炭素率を大きく高めるという政策的な商品です。ですからEVが商品として最適ではないことは最初からわかっていたことで、それでも普及させることを主要国が決めたものです。

HV車を欧州の政府がエコカーとして認めていないのはゴールポストが50%以上の脱炭素にあるからです。HVは(燃費が70%良いことから)確かに30%は炭素を減らします。でも50%にならないので政治的に認めないわけです。

写真=iStock.com/Khanchit Khirisutchalual
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補助金を使って無理筋のEVシフトを進めてきた

製品としてもともと無理筋なEVを購入させるために各国政府が導入したのが補助金です。私はこの補助金のおかげで本来の価格よりも安くEVを入手しました。国と東京都の補助金のおかげでテスラのモデルYが440万円、BYDのドルフィンは290万円と、実際に必要な金額よりも少ない出費で入手できました。

しかもこの後、毎年の税金も優遇されますからガソリン車と比べれば毎年10万円近く得をすることができます。自宅のガレージで充電することでガソリン換算でリッター50kmは走りますし、夜間8時間で120km分は充電できますから普段は走行距離で不安を感じることはまったくありません。ちなみに私は使いませんでしたが、自治体によっては自宅に充電設備を設置するための補助金もあります。

こうして本来無理筋のEVシフトを、補助金を使って強引にキャズムを超えさせようとしてきたのが各国政府です。特に欧州と中国は積極的にEVシフトを進めました。市場全体では新車販売の16%だったとしても、EVを購入できる中流の上から富裕層に関しては実はとうにキャズムを超えて3割以上のユーザーは新エネルギー車を購入しています。

その結果、今起きているのが3つの誤算です。