そう、荷主や世間がドライバーよりも心配している「荷物」にさえも影響が生じることになるのだ。
そうなると今後、届いた荷物の破損や状態低下が増えても不思議ではない。
スピードが上がったトラックは、あらゆる面で「リスク」や「負担」しかないのである。
荷主からの「早く持って来い」という強要につながる恐れ
一方、この法定速度の引き上げに対し、一部からは「元々高速道路にはすでに90km以上で走っているトラックドライバーがたくさんいるからいいじゃないか」という声が聞こえてくる。
しかし、国が「時速90kmで走っていい」とするのと、「勝手に時速90kmで走っている」のとは、ワケが違う。
「トラックも時速90kmで走っていい」という「国からのお墨付き」は、24年問題対策で効率化が求められる物流の世界にとって、荷主からの「早く持って来い」という強要につながる恐れがあるのだ。
無論、この時速90kmへの引き上げは、時速90kmを“出さないといけない”わけではない。
実際、安全運転遵守、ドライバーの健康問題から車速を75kmにしている会社も少なくない。
しかし、日本には「上が言ったから動く」「上がいいと言っているから」とする風潮がある。
コロナ禍におけるマスクにおいても、国が「外していい」と声明を出すまで外せない雰囲気が続き、「マスク警察」が多数出現したのがいい例だ。
つまり、国のお墨付きが出たことで、今後効率を求められる荷主から「国がいいと言っているのだから」「労働時間が短くなっているのだから」とスピードアップを強要される可能性もあるのだ。
速く走るほど燃費の悪化で損をする
速度引き上げで懸念されるのは、安全や労働環境の低下だけではない。「燃費の悪化」も起こる。
トラックに限らず、どんなクルマ、機械、人間においても動作を速めればその分必要となるエネルギーは増える。
もう1つ、スピードを上げることで燃費を悪くする要因になるのが「空気抵抗」だ。
この空気抵抗は、車速の2乗に比例すると言われており、速度が上がるにつれ、無論その抵抗は増えるため、やはり燃費が悪くなる大きな要因なのだ。
これらによって、トラックは時速を10km上げると、7~8%燃費が悪化するという報告もある。
運送事業者に係る経費のなかで、燃料費が占める割合は18%。人件費(38%)に次ぐ大きさだ。
雇用形態にもよるが、トラックドライバーのなかには、燃料費を負担しているケースも少なくない。燃料高騰が続く只中。運賃と燃料費を分け、サーチャージとしてかかった分の燃料費を請求できるような仕組みは、運送業界には整っていない。
つまり、早く走ることは結果的に運送事業者、ひいてはトラックドライバーの金銭的な負担にもなるのだ。
現場から聞こえる「そうじゃない」の声
国や有識者らが考えるように、「机上」では当然、時速を80kmから90kmに引き上げれば、目的地に早く到着できる。例えば東京―大阪間では、到着時間が1.5時間早くなる。
しかし、上記のような事故のリスク、ドライバーの負担を犠牲にしてまで、荷物を早く届ける必要があるのだろうか。しかもこの「働き方改革」や「2024年問題」を口実にしていることに、底はかとない憤りを感じる。