このままでは「ゆとり教育の失態」を繰り返す
ワーク・ライフ・バランスなどという掛け声自体、ワークとライフが切り離されている20世紀的な考え方です。「自分の労働力をお金に変える」という意味で、19世紀のマルクス主義的な発想から抜け出せていないとすら言えます。
アメリカの臨床心理学者フレデリック・ハーズバーグ氏は、仕事の満足度を上げるには「動機づけ要因」が必要になると言っています。やりがいのある仕事をこなし、達成感を得ることで、初めて本当の幸福を感じられるということです。
社員が高いレベルで幸福感を得るためには、会社は社員が成長する環境を提供することです。そのためには、仕事と人生を切り分けるのではなく、その重なりを意識することが重要なのです。
「人生の一番良い時期を過ごす『会社での日常』を自らの力で『おもしろおかしい』ものにして、健全で実り多い人生にして欲しいという前向きな願いが込められています」
堀場製作所のホームページにある言葉です。まさに「ワーク・イン・ライフ」を具現化した言葉と言えるでしょう。
日本企業がハードワークを否定して、ゆるブラック企業化してしまえば、かつてのゆとり教育の失態を繰り返すだけです。
理想的な「ワーク」と「ライフ」の重なりは3割から7割
「ワーク・イン・ライフ」の重要性に気づいてもらうために、私はよく研修で、自分のワークとライフを円で表現してもらうというエクササイズをやってもらいます。
ワークとライフで同じくらいの大きさの円を描く人が多いのですが、中にはワークのほうが圧倒的に大きい人や、逆にライフのほうが大きい人などさまざまです。
次に、その二つの円がどのように重なるかを描いてもらいます。ここは迷う人が多いのですが、あくまで感覚で描いてもらえればOKです。例えば自分の仕事が自分のやりたいことに直結していれば、その重なりは大きくなります。
一方、円が完全に離れている人もいます。これはまさにワーク・ライフ・バランス、つまりワークとライフが完全に分離した「平成型」と言えるでしょう。
一方、仕事ばかりでそれ以外の時間がまったく取れていない、という人もいるかもしれません。仕事の中に人生が取り込まれてしまっている「昭和型」です。
私はこの二つはどちらも問題だと考えています。私がよく言っているのは、ワークとライフの重なり方は3割から7割ぐらいがいいということです。
このエクササイズを受けたある人は、自分のワークとライフの円が完全に重なっていたことで、自分が完全に会社人間であることの恐ろしさに気づき、ワーク一辺倒な人生を改めたそうです。そして、いろいろなことに関心を持つようになったのですが、実はそれが仕事にも好影響を与え、後に会社の研究所の所長に出世しました。