楽しくイキイキと働くにはどうすればいいのか。京都先端科学大学ビジネススクールの名和高司教授は「ワーク・ライフ・バランスを過度に重視して『食べていくために我慢して働く』のはもったいない。やりがいのある仕事をこなし、達成感を得ることで、初めて本当の幸福を感じられる」という――。

※本稿は、名和高司『パーパス経営入門』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

ビジネスマンのワーク・ライフ・バランス
写真=iStock.com/Chinnapong
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働き方改革の結果、「ゆるブラック企業」が増えている

「ゆるブラック企業」という言葉をご存じでしょうか。2021年に『日経ビジネス』で特集が組まれたので(11月15日号)、読まれた方も多いかもしれません。

「仕事は楽だし居心地もいい。しかし、スキルはまったく身につかない。そんな企業で働き続けた結果、気がついたら自分の転職価値がまったくなくなっていた……」

そんな企業を「ゆるブラック企業」と呼ぶそうです。昨今の働き方改革の結果、こうした企業が増えているということです。

これについては私も、以前から警鐘を鳴らしていました。仕事がきつくてスキルも身につかないのは完全なるブラック企業ですが、働きやすくても力がつかない企業もまた、一種のブラック企業なのです。

社会人になったばかりの時期というのは、一番成長できる時期です。かといって、力はついても超ハードワークという働き方は、今の時代にはそぐいません。現代の「ホワイト企業」は、「働きやすく、力もつく企業」でなくてはならないのです。

「ワーク・ライフ・バランス」は時代遅れ

そのために必要な発想の転換があります。「ワーク・ライフ・バランス」から「ワーク・イン・ライフ」へのシフトです。

昭和の時代はまさに、仕事が人生の中心でした。誰もがプライベートなど顧みず、会社人間として生きることが求められました。ライフは仕事の中にほんの少しだけ存在する、というイメージです。

私が社会人になって最初に勤めた企業である三菱商事も、まさにそうでした。生活の中心はすべて仕事。しかし、当時は他社も含めてそれが普通であり、私自身も強く疑問に思うことはありませんでした。

平成になると、「ワーク・ライフ・バランス」という、ワークとライフを同等に扱おうという考え方が現れました。仕事は仕事、生活は生活ときっちり切り分け、どんなに忙しくても定時に帰り、プライベートには仕事を一切持ち込まない。

この考え方は昭和的な「仕事中心の人生」から抜け出すためには意味があったと思います。しかし、私にはどうも「もったいない」と思えてしまうのです。

仮に1日8時間働くとすると、それは1日の3分の1に当たります。そんな長い時間を「食べていくために我慢して働く」のは、とてももったいないのではないでしょうか。

そもそも、仕事と生活とは完全に二律背反となるものなのでしょうか。仕事の中で自分が本当にやりたいことができれば、それは人生の一部となります。当然、仕事にも志高く取り組むことができます。

このように、ライフの中にワークを入れるというのが、「ワーク・イン・ライフ」という発想であり、令和の時代にはこれこそが求められています。