子育てと仕事は両立できるものなのか。東京大学未来ビジョン研究センター客員研究員の中条薫さんは「働く親の多くは常に時間に追われ、周りの人に罪悪感を抱いているのが現実だ。これからは、ワークとライフを分けてバランスを取ろうとするのではなく、統合的に捉える考え方へシフトする必要がある」という――。

※本稿は、中条薫『しなやかな心とキャリアの育み方』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。

ワークライフバランス
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです

ワーキングペアレンツの実態はわかりにくい

仕事と子育ての両立は、ワーキングペアレンツにとって最大の悩みです。働きやすい制度はもちろんのこと、職場の環境や一緒に働く方たちからの協力と理解が欠かせません。

とはいえ、ワーキングペアレンツの実態は、当事者以外にはなかなかわかりにくく、子育て経験の少ない上司や同僚とのコミュニケーションが難しい局面も多々あります。

この問題の改善に向け、わたしも参加する東京大学のプロジェクトでは、バーチャルリアリティ(VR)を活用して、ワーキングペアレンツへの理解を深める研修についての検討を進めています。VRの世界のなかで、子育て中の社員とその上司の方々に、仮想的に上司としての仕事や子育てを擬似体験してもらい、2つの視点にたった体験を通してコミュニケーションをすることで、自らのバイアスに気づいたり、互いの理解を深めていただく試みです。

時代は変わっても母の悩みは一緒

今回、VRで体験するシナリオと研修内容を具体化するにあたり、子育てと仕事の両立の悩みや、働きやすい職場に向けたアイディアなどについて、ワーキングペアレンツの方々に生の声を聞かせていただける機会を得ました。

総勢15名、子育てと仕事の両立に真っ最中な方々へ、合計12時間にわたりヒアリングをさせていただき、本当に学びの多い貴重な体験となりました。子育てと仕事で忙しいなか、少しでも働きやすい職場の実現に役立つのならと時間を割いてくださった方々には、心から感謝しています。

ワーキングマザーの方々との会話では、「時代は変わっても母の悩みは一緒だなあ」と、かつて働く母親であったわたし自身にも共通する悩みや想いも数多くありました。

他方では、テレワークという新しい働き方に伴う新たな悩みや、個々の方々のリアルな体験を伺ったりもしました。

さらに、ワーキングファーザーの方々との会話では、「時代はここまで変わってきているんだ!」と目から鱗が落ちる体験をさせていただいた気がします。

そして、これらの貴重な会話を通じて、ワーキングペアレンツを取り巻く課題が浮かび上がってきました。