「脳を広く使うこと」が優れた直観に結びつく

直観とは無意識の中に蓄えられた記憶・経験値から、無意識の中で思考して生まれてくるもので、根拠のないいい加減なものなどではない。むしろ直観こそが、脳内の膨大な記憶に基づいた「最も論理的な」意思決定と言っても良いだろう。そして、全ての経験値を活用するために、脳の一部ではなく、脳を広く使うことが、優れた直観に結びつくのである。

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直観は「無意識のうちに」生まれてくるために、我々がその過程を意識的にコントロールすることは難しい。だが、脳を広く使うお膳立てをすることによって、より良い直観を得る可能性を高めることはできる。

「無意識の中の記憶」とはいったい何か

直観の発動には、無意識の中の記憶が重要であると述べてきた。この「無意識の中の記憶」とはいったい何だろうか?

長期記憶には4つの種類があるのだが、大きく2つに分けられる。「陳述記憶」と「非陳述記憶」である。陳述記憶は言葉で表すことのできる記憶、非陳述記憶は言葉にしにくい記憶とされている。

非陳述記憶には「手続き記憶」と「情動記憶」があり、いずれもその記憶が発動する時に、我々はそれを意識しない。手続き記憶の例としては、歩く時の身体の使い方、言葉を発する時の口や舌の使い方など、運動の巧緻性を含めた身体の使い方に関する記憶である。この記憶は、大脳基底核という脳深部にある神経細胞の集まった部位と小脳に保存されており、意識されることはなくても無意識の中で働いている。

一方、情動記憶は、ある特定の出来事や人、もの、音、匂いなどが恐怖や喜びなどの情動と結びつくようになった記憶であり、これも無意識の中で発動し、人の好みや性格、考え方などに強く影響するようになる。何かを決める時の優先事項である「好み」は無意識の中の情動記憶が関わっている。

この情動記憶は、古典的には、扁桃体にあるとされてきた。この扁桃体が記憶の獲得に必要な「海馬」と言われる場所に隣接している点は、情動に関連した情報が記憶に残りやすい点を説明してくれる。

ところが最近の脳科学の研究から、扁桃体の重要性が誤っているわけではないのだが、情動記憶の形成にはより広い脳領域が関係していることがわかってきたのである。つまり、情動記憶も次に示すエピソード記憶や意味記憶と結びついて、脳全体に保管されていると考えられるようになったのだ。