火葬に長蛇の列で「遺体ホテル」が大繁盛
死を受け入れる現場ではすでに特異な現象が始まっている。まずは、「火葬待ち」である。すでに人口に対する火葬炉の少ない都会の火葬場では、待ち状態が長期にわたっている。横浜市など複数の公営斎場では、待機状態が1週間以上のケースもでてきた。
政令指定都市における人口10万人あたりの炉数は平均2.47(2017年、横浜市調べ)だ。だが、政令市の中で最も人口の多い横浜市(約377万人)では、公営の火葬場が4施設、民間が1施設の計5施設しかない。10万人あたりの炉数は1.45と極端に少ない。死者が多い冬場の昼間に火葬するならば、朝一番か夕方の火葬、あるいは1週間ほど待っての火葬となる。
こうした状況に対し、横浜市は炉16基を備えた新設の火葬場を、同市鶴見区に整備中だ。もっか建設中で、2025年度末の完成を見込んでいる。
神奈川県相模原市やさいたま市、京都市、千葉市、福岡市、仙台市、川崎市などでも火葬場の不足が指摘されている。だが、火葬場は迷惑施設にあたる。近隣住民の反対運動などによって、なかなか新設が進まないのが実情である。
そこで、遺体安置施設(通称・遺体ホテル)が盛況だ。人が亡くなった場合、墓地埋葬法の規定では、24時間以内の火葬はできない。かつては、身内の遺体は自宅に安置し、ドライアイスで遺体が傷むのを防いでいた。そのまま自宅で通夜、葬儀を営むことも少なくなかった。
しかし、現在ではマンション住まいなどの住環境の変化などによって、自宅に遺体を安置できないことが多くなってきた。病院や高齢者施設で亡くなれば直接、葬儀会館や遺体ホテルに移動し、火葬までの時間を過ごすことが常だ。
多死社会と火葬待ち、そして自宅葬の減少などによって、遺体ホテルに需要が集まっているのだ。10年ほど前までは、遺体ホテルは東京都内や大阪市内、川崎市内などに数えるほどしかなかったが、現在では多くの中核都市に多数存在する。老朽化したビジネスホテルや倉庫を改装して、遺体ホテルに転用するケースも出てきている。
そのタイプは様々だ。冷蔵庫のようになっている壁面収蔵型の霊安室もあれば、それこそホテル同然の瀟洒な遺体ホテルもある。ホテルさながら8畳ほどの部屋に分かれていて、1室に1棺ずつを安置するのだ。
ホテルタイプの霊安室には棺を冷やす冷蔵設備がついていないため、業者が毎日ドライアイスを補塡しにやってくる。こうした遺体ホテルは今後、さらに増えていくことが予想される。