子どもの回り道を妨げないことが、才能を伸ばすことにつながる

――社会性を強要しすぎないことの他に、親が子どもの才能を伸ばすために何ができますか。

【田邉】親にとって無駄だと思うようなことを子どもがやっていても、妨げないことです。子どもが好きでやっていることを親が止めて「もっと勉強しなさい」「そんなことしていないで本を読みなさい」などと言うのはやめた方がいいです。

なぜなら、一見役に立たない物事からでも学ぶことはあるからです。子どもにとっても、好きなことを否定されている気持ちになってしまいます。

たとえば子どもが「1から100まで足し算をしよう」と思いついて1+2+3+……と地道に計算しているとします。親は「そんな時間かかることをやってないで、101×100÷2ですぐ答えが出るよ」と教えたくなるかもしれませんが、それをしない。子どもが自分で気付くまで待ってください。

特に、受験生の親は焦ってしまいがちです。そんな親御さんに、僕は「すぐ役に立つことはすぐ役に立たなくなります」と伝えます。誰だって、今まで生きてきて役に立ったことは、とんでもない回り道で学んだはずです。回り道はゴールにたどり着くための一番の近道だと僕は思っています。

だから、子どもの回り道を妨げてはいけません。たとえばアリの観察も、電車を見ることも、ずっとそれをやっているなら、やらせておくしかないんです。

自分の子ども時代と比べて、尊敬する

――子どもの興味を尊重することはわかりました。だけど、どうしても直してほしいこと、注意したいことがある場合にはどうするといいでしょうか。

【田邉】子どもは自分のことを認めてくれる人の話は素直に聞いてくれます。だから、子どもを尊敬することが大事だと思います。

筆者提供
田邉氏は「自分の子どもの頃と比べると、生徒たちは本当にすごいです」と笑う

――子どもを尊敬すると言われても難しい時もあります。どうするといいでしょうか。

【田邉】いまの自分の年齢から見て子どもを評価するのを辞めるということです。

相手が小学校低学年だと「尊敬しようがない」と思うかもしれないけれど、自分が小学生の頃を思い出して「この子と同じことができるだろうか」と想像力を働かせてみてほしいんです。そうすると、「すごいな」と思うところがたくさん見つかります。とくにりんご塾には算数が得意な子たちがたくさんいるので、「すごい」としか言えないんですよ。

僕が小学生のときには絶対に解けないような、難しい問題に取り組んで正解しています。だから、生徒が解いた問題に丸をつけながら「こんなに難しい問題ができるなんてすごいね!」と心から言っています。

これができる大人の話は、子どもはよく聞いてくれます。子どもは「やっと自分のことをわかってくれる大人が現れた」と思っているんです。

――りんご塾は2018年からフランチャイズ展開をしていて、現在は50教室(2024年4月には250校に拡大予定)あります。どこの教室でも同じように指導しているのでしょうか。

【田邉】はい、各教室の先生には、子どもを尊敬して接してくださいとお願いしています。

田邉亨『算数と国語の力がつく 天才‼ ヒマつぶしドリル かなりムズ』(Gakken)

こういう話をすると子どもになめられたり、下に見られたりするんじゃないかと心配する先生もいるんですが、そんなことはありません。たとえば、先生がミスをしても、「先生バカじゃない」とはならない。信頼関係ができるので、「先生のミスを指摘できた自分はすごい」になる。上から指導するタイプの先生が同じようにミスをすると、「あんなに偉そうなのにできてないじゃないか」と思われてしまう。

だから、子どものことを心から尊敬することが、子どもを伸ばす大人の条件。それ以外は、あまり大事ではないと思っています。

(聞き手・構成=ミアキス代表 梶塚美帆)
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