なぜ飲んでも大丈夫なのか

マングースバスターズの隊員向けに勉強会を開いたときにも、シャーレに絞った毒を私が舐めてみせたら、隊員の西真弘さんが残りの毒を「俺も俺も」と飲み干していた。彼はアレルギー性の皮膚炎持ちだから「大丈夫かよ」と眺めていたが、特に何も起きなかった。結果良ければ全てよしといっていいのかはわからないが。

ハブ捕り名人の南竹一郎さんはもっとすごくて、ハブから毒を絞りに絞って、1匹分を飲み干した。なんでそんな飲み方をしたのかは詳しく覚えていないが、飲んだら翌日に胃が焼けるように痛くなったとこぼしていた。

服部正策『奄美でハブを40年研究してきました。』(新潮社)

南さんが胃痛になったことと、ハブの毒を人が飲んでも平気なこととは大きく関係がある。ハブの毒がなぜ飲んでも問題ないかは解明されてはいないが、有力な仮説があるのだ。

人間の胃液や腸液を思い浮かべてもらえればわかりやすいだろう。

消化酵素は食べ物を消化するが消化管の粘膜に作用しない。粘液が中和するから、消化酵素は食べ物を溶かしても自分の口の中や胃や腸は溶けない。

ハブ毒も唾液腺が進化した消化酵素だ。だから、ハブ毒を飲み込んでも喉元に刺激を感じるだけで人体に変化は起きないのではないか、と推論を立てられる。

ハブ捕り名人が胃痛になったワケ

ハブ毒は飲んでも大丈夫だし、皮膚に付いても何も起きないけれども、眼球のように皮膚の下に形成された組織に毒が入ると、つまり目に入ると咬まれた時と同じ症状が起きる。このことも仮説を裏付ける。

とはいえ、人間でも自分の胃の粘膜を自分の胃液が消化してしまってバランスが崩れる場合がある。みなさんもご存じの胃潰瘍だ。南さんがハブ毒を飲んで、胃が痛くなったのも、おそらく胃が炎症を起こしていたのだろう。

南さんは大酒飲みだった。酒が大好きで、飲んでいる人数が多くても私と二人でも、つまり誰とであろうと、焼酎の一升瓶が空になるまで眠らない人だった。ハブ毒をガブ飲みしたことで飲み過ぎによる胃の不調がわかったというわけだ。

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