歩行できなくなってしまった知人
私の徳之島の知人は、夜中に寝ているときに家に侵入してきたハブに咬まれてしまった。病院に行ったものの、「あなたは昔、1回咬まれてるから、免疫があるからね」と抗生物質を注射するだけ。慌てたのがこの知人本人だ。私が日頃からハブの治療については、うるさく話していたから夜中に泣きながら電話をかけてきた。「服部さん、ちゃんと治療するように説得して」。
私もそれは危険な対応だなと思って、電話越しに、「切開して、傷口を洗ってから血清を打って下さい」と伝えたが、いかんせんその医者は経験がない。全くわからないから治療の手順を勉強して、ようやく治療に入った際には咬まれてから6時間くらい経っていた。それくらいの時間があればハブ毒は体のあらゆるところに作用してしまう。
その知人が以前に咬まれた際には、日曜日に咬まれて、その週の金曜日には涼しい顔で猟(ハブ獲り)に出ていたが、その時は半年くらいまともに歩けなくなってしまった。いかに初期対応を間違えてはいけないかがわかるだろう。
毒は飲んでも問題ない
「その場で吸い出せ」と言われても、どうやって吸い出すんだろうかと疑問に思った人も多いはずだ。
結論から述べると、口で吸い出すのが最もポピュラーだ。
一昔前は「ハブ毒を吸い出す時に、虫歯があると歯が全部抜けます」と公然と言われていた。虫歯があったら、吸わない方がいい、もし毒を吸い出したらその場で吐けと文書にまでなって流通していた。
もちろん、そんなことはない。それどころか、おススメしないがハブ毒はごくりと飲んでも問題ない。
私は子供向けのハブ対策の啓発講座で「ハブに咬まれた人が周りにいたら吸い出してあげてね」と話すが、子供にしてみれば「毒を吸い出すなんて怖い」と感じるようだ。もっともだろう。大人ですら一昔前は飲むどころか口に含むだけでも危険と平然と警告されていたのだから。
そうした不安を払拭するためにも少し前まで私は子供たちの前で毒を舐めていた。あるときは歯科医院で抜歯した翌日に「おじさんの歯からは血が出ていますが、大丈夫ですよ」とシャーレに毒を落とし、ペロリとしても問題ない姿を見せていた。