風邪に抗生剤は無効である。それでも処方する医師がいるのはなぜか。小児科医の松永正訓さんは「開業医が風邪に抗生剤を処方する問題は根深いものがある。患者とのコミュニケーションを抗生剤を出すことで省略している部分があるのではないか」という――。(第3回/全3回)

※本稿は、松永正訓『開業医の正体 患者、看護師、お金のすべて』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

錠剤を持つ医者のイメージ
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鼻水が出るという4歳の男の子

「○○という薬をください」と言われると、開業医は正直言ってえる。クリニックは街のドラッグストアではない。医師が診察する場所なのだ。

こういう患者もいた。4歳の男の子で汚い鼻水が出るという。ひと月前にも同じ症状があって、かかりつけの小児科へ行った。最初は風邪薬が出た。でも1週間経っても治らなかった。そこでアレルギーが関与しているかも……と、アレルギー止めを出された。それでも治らない。最後に抗生剤のクラリスを処方されたら治った……こう母親は言うのである。

「……」

ぼくは返答に窮した。もしかして、「風邪薬」と「アレルギー止め」と「クラリス」を処方しろってこと?

でも母親はそれ以上、何も言わないで黙っている。ぼくもどうしたらいいか分からず黙っている。診察室はしーんとなってしまった。最後に抗生剤って……それはたまたま風邪が治る時期だったとしかぼくには思えない。

「使った」「治った」だから「効いた」なのか

医者も患者も、薬を「使った」「治った」だから「効いた」とすぐに考える。いわゆる「3た」療法である。

この患者家族は少しでも情報提供をと思って1カ月前の治療経過をぼくに教えてくれたのかもしれない。たぶんそうだろう。でもぼくには、こういう薬を出してくださいと言われているようなプレッシャーとなってしまった。4歳なんだからしっかりとハナをかんで、風邪薬(カルボシステインのみ)を飲んでいれば十分とぼくは言いたいところだったが、散々迷ってアレルギー止めも処方した。さすがに抗生剤は出さなかった。