抗生剤が「アリバイ作り」になっているのではないか

開業医が風邪に抗生剤を処方する問題はなかなか根深いものがある。ぼくはうちを受診する患者のお薬手帳を見て、広域スペクトルという強い抗生剤を過去に大量に飲んでいるのを知って唖然とすることがある。この子の未来の健康はどうなってしまうのだろうか。

ぼくが患者家族に「風邪に抗生剤は効果無し、それどころか有害」と言うと、保護者から「ではなぜ他の先生は抗生剤を出すんですか?」と聞かれることがよくあり、言葉に詰まる。

なぜ出すのだろう? ぼくもよく分からない。

一部に抗生剤を歓迎する患者がいることも事実だろう。患者は一般的に薬をたくさん出される方が喜ぶ傾向にあるようにぼくには見える。それは、その方が医者の姿勢があたかも熱心に見えるからだろう。

もう一つ考えられる理由は、抗生剤を出すことが、病気が悪化したときのアリバイ作りになっているのではないだろうか。自分(医師)はベストを尽くしましたよと。そんなことでいいのだろうか。

患者とのコミュニケーションを「抗生剤を出します」で省略

でも、もしかして最大の理由は、患者とのコミュニケーションを抗生剤を出すことで省略しているのではないか。はい、これがマックスの治療ですよ……みたいな感じで。

松永正訓『開業医の正体 患者、看護師、お金のすべて』(中公新書ラクレ)
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医者と患者の関係で一番大切なのは、相互の理解を深めるコミュニケーションである。自戒を込めて言うが、抗生剤を欲しがっている患者に抗生剤を出すのは極めてイージーな医療で、いかに抗生剤が不要であるかを説明するのは時間もかかるし、骨も折れる。だが、それが医師の使命であろう。なお、念のために言っておくが、成人の風邪にも抗生剤はまったく効果はない。ぼくはこれまでの人生で風邪で抗生剤を飲んだことは一度もない。

患者家族にはいろいろなニーズがあって開業医を訪れているのであろう。それはよく分かる。だけど、薬だけを求めて来院するのではなく、医者とよくコミュニケーションをとって、まず診断をはっきりとつけ、薬はその次と考えてほしい。薬だけでつながっている医師と患者の関係はちょっと寂しいとぼくは思う。

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