資金がいくらあればクリニックを開院できるのか。小児科医の松永正訓さんは「資金はゼロでも大丈夫である。お金を貸してくれて、コンサルタントのように開業までのステップを支える企業があるのだ」という――。(第1回/全3回)

※本稿は、松永正訓『開業医の正体 患者、看護師、お金のすべて』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

硬貨を手で覆うイメージ
写真=iStock.com/uchar
※写真はイメージです

資金はゼロでも大丈夫である

資金がいくらあれば開業できるか? これはゼロでも大丈夫である。担保もなしで大丈夫である。少なくともぼくの場合はそうだった。ぼくは19年間、大学病院の医局に在籍したが、開業を決意したときのぼくの貯金はおよそ200万円くらいだった。この200万円を全部つぎ込んでしまうと生活ができないので、自分は開業医になれないのではないかと思った。

ところが、ちゃんとお金を貸してくれる人がいるのである。おまけにコンサルタントのように、開業までのステップをすべて支えてくれる。ぼくがクリニックの経営を安定させれば、貸したお金と利子を回収できるから。言ってみればウインウインの関係だ。

ぼくが開業するまでの経緯をちょっと振り返ってみよう。

開業を決意する数年前に、ぼくは生命保険に加入するために、ある内科クリニックで健康診査を受けた。そのクリニックは自宅から車で30分くらい行った所にあるショッピングモールの中にあった。

クリニックの扉を開けて、まず驚いた。待合室がとても狭い。長椅子が数個並んでいて、そこに患者さんが肩を寄せ合って座っている。すし詰めという感じである。ぼくは自分の名前が呼ばれるまで待合室の隅で立っていた。

看護師さんに呼ばれて診察室に入ると、そこも狭かった。おまけに薄暗かった。医師は、そんなに年配という感じではなく、中堅といった年齢に見えた。簡単な問診と聴診が終わると、その医師は診断書にペンを走らせ始めた。

「裸足で足、ゆらゆら」にカルチャーショック

ぼくはその様子を眺めていた。そして何気なく視線を下に向けると、あることに気づいた。その医師は素足なのである。サンダルも脱いで、足をゆらゆらさせていた。ぼくはその姿を見てこう思った。

(ああ、この人は、今の仕事が好きじゃない。狭くて暗いビルの一室で、楽しくもない仕事をしているんじゃないかな)

ぼくが大学病院で患者家族と相対するときに、「裸足で足、ゆらゆら」は絶対にない。もっと真剣に患者に接している。言っては悪いけれど、この先生はんでいるなと感じたのである。

この光景は強烈だった。当時のぼくは大学病院で最先端の医療をやっていたので、こういう医者人生もあるのかと、ちょっとカルチャーショックを受けた。決して見下したという意味ではなく、違う世界だと感じた。ちなみに、ビルの一角のテナントになって診療所を運営することを「ビル診」という。