福祉だけでなく就労の機会を与える

万事がこうなので、若いスタッフは働けば働くほど心が削られていった。なんでこんな人たちの介護をしなければならないのか。自分は必要とされていないのではないか。志を持って入ってきても、1年もたたずに辞めていってしまう。

山﨑氏は事業をつづけるためには、スタッフの心を守らなければならないと考えるようになった。それには、トラブルを起こす利用者に変わってもらわなければならないが、容易たやすいことではない。

仲間と散々話し合って出たアイディアが、彼らに福祉サービスを提供するだけでなく、就労の機会を与えることだった。彼らは誰からも必要とされず、することもないので、朝から大酒を飲み、酔った勢いでスタッフに当たり散らす。それなら、彼らに役割を与え、生活を落ち着かせてはどうかと考えたのだ。

こうして山﨑氏らが立ち上げたのが、カフェ事業だった。町中に小さなカフェをオープンさせ、そこで利用者にアルバイトをしてもらう。仕事を通してやりがいをつかめば、いろんなことに前向きになれるはずだった。

写真=iStock.com/Weedezign
町中に小さなカフェをオープン(※写真はイメージです)

「周りに迷惑だからカフェを畳んでくれ」

2015年に開始したカフェ事業はすぐに軌道に乗ったが、しばらくして横やりが入った。

地元住人からクレームが寄せられ、営業が難しくなったのだ。

「周りに迷惑だからカフェを畳んでくれ」

カフェに釡ヶ崎の高齢者が大勢出入りすることで、周辺の店や家の人たちが不安を口にするようになったのである。

逆の立場に立てば、そう言いたくなる気持ちもわからないではない。

カフェ側は彼らと話し合いもしたが、理解を得ることができず、志半ばで閉店を決めた。

次に山﨑氏が手掛けたのが、リサイクル品のバザーだった。カフェ経営よりハードルが低いと考えたのである。

衣服や食器や家具を方々から集め、利用者に搬送から物販までを手伝ってもらった。

だが、こちらは利用者からの評判があまり芳しくなかった。バザーで売る商品にさほど興味がなかった上に、売り上げも低い。利用者がやりがいを見いだすにはほど遠かった。