「西成の人間は、みんな朝から飲んでる。ここは酒の街や」

他に何かいい仕事はないだろうか。そんなことを考えていた矢先、山﨑氏のところに一人の利用者がやってきた。軽度知的障害のある男性だった。彼は言った。

「わしは昔、ここらで酒を造ってたんや。うまい酒が造れんねん。西成の人間は、みんな朝から飲んでる。ここは酒の街や。もし社長(山﨑)が酒を造ってくれたら、わしがなんぼでも売ってやる。頑張らんかい!」

かつてこの近辺では、人々が自家製のどぶろくを密造して飲んでいたり、それを居酒屋に売って稼いだりしていることがあった。男性もそのように密造酒を造った経験があったのだろう。

山﨑はその場では返事をにごしたが、日が経つにつれて「釡ヶ崎のおっちゃんたちに、酒造りや販売は合っているのではないか」と考えるようになった。ただ、今の時代に酒を密造して売るわけにはいかない。

わずか1日半で1本800円のビールが完売

そこでまず、山﨑氏は他県の工場からOEM(委託者ブランド製造)でビールを500本買い付け、それに自社で作ったラベルを貼り替えて売ってみることにした。リスクの低い方法で試してみたのである。

発案者の男性を含めて15人ほどの利用者に声をかけて営業してもらったところ、驚いたことにわずか1日半で1本800円のビールが完売した。

大量のビールのイメージ
写真=iStock.com/FreshSplash
わずか1日半で1本800円のビールが完売(※写真はイメージです)

利用者たちは毎日のように朝からドヤ街で飲み歩き、酒屋の店主や常連客と仲が良い。そのコネを使って売りさばいたのだ。

利用者たちは口々に言った。

「社長、酒ならどれだけだって売ってみせるで!」