しかし、それまでとは180度異なる世界に飛び込んで、当初は戸惑いの連続だった。特に、桝さんを悩ませたのはバラエティー番組だ。

「学生時代からバラエティーを見る習慣がなかったので、笑いのツボがわからなかったんです。入社して1年目に、『エンタの神様』の前説(まえせつ。本番前に番組の流れを説明しながら会場を和ませる役)を任されたんですが、フリートークで笑いを取るなんてとても無理。収録日の前日は憂鬱(ゆううつ)で眠れないほどでした」

窮状を打ち破ったのは、持ち前の粘り強さと集中力だ。バラエティー番組のDVDを見たり、先輩アナウンサーの話術を学んだりして、人はどの場面でどう言えば笑うのか、徹底的に研究したのである。

定評のあるスポーツ実況についても然(しか)りだ。子供の頃から運動は大の苦手。野球やサッカーは好きでよく見ていたものの、他のスポーツの知識は皆無だった。そんな彼にラグビーの実況の仕事が回ってきた。

「話を振られたのは本番の3カ月前。ラグビーのルールも知らなかったので、焦りました。まずラグビー雑誌のバックナンバーや解説本を徹底的に読み込みました。そして、元ラグビー部の友人と一緒に試合に行き、解説してもらいながら観戦をして、実況の練習を繰り返しました」

本番までは寝ても覚めてもラグビーのことばかり。このときの精神的プレッシャーに比べれば、大学受験のほうがずっとラクだったという。

「受験って落ちても自分がヘコむだけじゃないですか。でも、実況はアドリブですし、失敗すれば出場しているチームやファンに申し訳が立たない。会社にも迷惑をかける。世間に自分の恥をさらすことにもなるわけです。人生で一番勉強したのはいつかと聞かれたら、『社会人になってから』と答えますね、今は」

桝さんが中学や大学受験勉強で得たのが、自己マネジメント力だ。

「受験時は、たとえば3月から6月にこの参考書を終わらせようとか、細かく計画表を作りました。そうすることで多くの課題から、何を優先させるべきかが見えてくるんですね。計画通りにいかない場合にはどうリカバリーするかを考える。自分はどのくらいの負荷に耐えられる人間なのかも、受験勉強を通じてわかりました。こうした経験は社会人になった今、すごく役に立っています」

現在は入社6年目に突入。場数を踏んで、経験でカバーできることも増えている。しかし、どんな番組でも全力投球するのが桝さんの信条だ。

「尊敬するアナウンサーの一人は、故・逸見政孝さん。逸見さんの魅力は“ブレない真面目さ”にあったと思うんです。僕もこの『快脳!マジかるハテナ』でそんなアナウンサーを目指したいと思っています」

(葛西亜里沙=撮影)
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