東京大学が4月入学を改め、9月の秋入学へ全面移行すると発表した。実施時期は5年後をメドとしており、現在検討会議を設置、本年度中に具体的な工程を作成するとしている。
現在も、一部秋入学を導入している大学はあるが、全学部の秋入学を、しかも東京大学が実施するというニュースは関係者を驚かせた。もし大学の入学時期が秋になれば、小中学生を持つ親にとっては、受験のみならず、その後の就職にも響いてくる問題だ。東大は他大学や産業界との連携も呼び掛けており、今後の動向に目が離せない。
そもそもなぜ今、秋入学なのか。これから受験を迎える子供やその親は、何をすべきなのか。自身も東京大学で物理学と法学を修め、近年、東大をはじめとする日本の大学制度や新卒一括採用に関して提言を行っている脳科学者の茂木健一郎氏に話を聞いた。
「東大の秋入学。僕は大賛成です。ぜひやるべきだし、今やらなくては東大の長期的没落は避けられないと思います。これまで東大が日本の近代化を担ってきたのは間違いない。でもそのブランド価値は近年、急速に下降しています。日本の中では依然『いい大学』でも、国際的な存在感は薄いんです」
それを裏付けるのが、世界大学ランキングだ。さまざまな国や機関が独自の査定方式で発表しているが、たとえばイギリスの高等教育専門誌『タイムズ ハイヤー エデュケーション』(以下、THE)が毎年発表しているランキングでは、2004年には世界第12位だった東大が、11年には30位まで下がっている。
「かろうじてまだアジアの中ではトップだとはいえ、すぐ後ろには香港大学(34位)やシンガポール大学(40位)が控えている。東大の先生方も、大学評価は『十分信頼に足るものではない』と言いながら、内心は戦々恐々としているはずです」
ランキングの査定項目の内訳を見てみよう。THEの場合、項目「教育」「研究」「国際性」「産業収入」「論文の影響力」の5つ。項目ごとに最高の評価を得た大学を100ポイントとして算出される。実は東大は「教育」や「研究」では高い評価を受けている。足を引っ張っているのは「国際性」だ。留学生比率や外国人教員率が低く、同じアジアの大学でも、34位の香港大学の国際性が83.7ポイント、40位のシンガポール大学が93ポイントであるのに対し、東大は23ポイントしかない。このままでは「アジアトップの大学」という地位も危うい。
在学中に留学する東大生は、わずか1%強
問題は大学としての立場だけではない。学生の質、ひいては日本の国力にも関係してくる話だ。東京大学憲章は、「市民的エリート」の育成をうたってい る。現代の「エリート」とは、グローバルに活躍できる人材のこと。当然、産業界も大学側がそのように学生を養成することを望んでいる。
しかし現状は難しい。東京大学の学部生向けのアンケート(※)によると、58.6%の学生が「留学プログラムの機会の充実」を望んでいるにもかかわらず、実際に長期留学を実現しているのはわずか1.6%。これでは「市民的エリート」の育成はおぼつかない。
「東大は明治期に欧米の最先端の学問を輸入するために創設された機関です。当初はラフカディオ・ハーンをはじめ、外国人講師が直接英語で講義を行っていま した。ところが夏目漱石が東大で教え始めた頃から、日本人教師の比率が増え、学問の日本語化が進んだ。おかげで日本は母国語であらゆる学問を論じられる特 異な国となりましたが、同時に学生の語学力は低下し、英語で直接学問の最先端にアクセスする能力が失われたんです」