堀 紘一●ドリームインキュベータ(DI)代表取締役会長。東京大学法学部卒業。ハーバードで経営学修士(MBA)取得。読売新聞社、三菱商事、ボストンコンサルティンググループ社長を経てDI創業。企業のコンサルティング、ベンチャー企業の投資育成などに取り組む。近著に『「正しい失敗」の法則』(PHP研究所)。

賛成か反対かと聞かれたら、僕は賛成です。そもそも入って数カ月後に長い夏休みを挟む春入学はシステム的に欠点がある。秋に入学すればそれが解消できて、季節的にも寒くなっていく時期なので勉強にも身が入るでしょう。

もう一つのメリットは、教育を受ける場の選択肢が世界へと広がること。入学時期のずれがないから、大学から海外に行くという選択も出てくるでしょう。あるいは、大学を卒業した後、そのまま欧米の大学院に進むこともできる。

もちろん、海外の一流校に進むには語学力が必要ですし、生活費など費用もかさんでイージーではない。でも、得るものは大きいはずですよ。僕自身、東大時代にメリーランド州立大学に留学して、商社にいたときにはハーバード大学の大学院で経営学修士(MBA)を取得しました。そこで学んだことを東大の教育と比べると、陸上部と園芸部ぐらいの違いがある。つまり、比べようがないんです。

では、何が違うのかというと、ハーバードでは、学生に考えることを徹底的に教えます。それに対して、東大は考えることをまるっきり教えない。進級もアメリカでは簡単にできなくて、メリーランド州立大学の場合は5万人の学生のうち4万人が1年生。高校を卒業すれば誰でも入れるけれど、ほとんどが進級できずやめていくほど厳しいわけです。

実際、僕が人生の中でよく勉強したなぁと思うのは、この2校に通っていた時期で、東大ではまったくと言っていいほど勉強しなかった。それでも卒業できてしまうわけだから、レベルが低いといわれて当然です。

逆に、秋入学のデメリットとしては、高校を卒業してから入学までに半年間のブランクがあること。ここで、プラプラ遊んでしまうのなら確かに感心しません。

ただし、たとえば入院しているお年寄りの世話をするとか、自衛隊に入って訓練を受けるなど厳しい環境に自身を投じるのであれば、無駄な時間にはならないと思う。そういう切羽詰まった状況でいかに創意工夫をするかは重要ですし、人生に対する考え方も変わるでしょう。草食系男子でも肉食系に変わるかもしれない。

もしくは、ギャップイヤーを回避できるよう飛び級を全面的に取り入れてもいい。今は一部の大学だけですが、高校2年生でも大学受験ができるように改めて、合格したら高校を卒業しなくても進学できるようにする。アメリカや中国では当たり前です。

飛び級ができるほどの人間というのは賢さのレベルが違う。僕の高校時代(筑波大学附属駒場)の同級生にも物理と数学がものすごくできるヤツがいてね。授業中は教科書を立てて早弁をしているんだけど、テストはいつも100点。先生が解いた数式を前に、もっとシンプルな解き方を示したり。そういう優秀な人間が飛び級で早く世に出てリーダーシップを発揮すれば、我々が得することにもなる。生活がよくなるわけですからね。

一方で、親の考え方も改革が必要です。率直に言えば、親が考えているほど学歴に値打ちはありません。第一、親に尻をたたかれて東大に入ったような人間は、伸びしろも知れているでしょう。それよりも人生とはどういうものか、夢を実現するには何をすべきかを教えてやってほしい。本来、その延長線上に大学進学はあるのです。

仮に東大の秋入学が実現しても、他大学まで足並みをそろえる必要はないと思います。春入学の大学にするか秋入学にするか、その決断も自分でさせるのが教育だと僕は考えます。

(上島寿子=構成 市来朋久=撮影)
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