番組作りを一変させたコロナ禍

コロナ禍のピークは、感染者数だけで見ると「第7波」と呼ばれる2022年7~9月である。そしてこの前後にあたる時期が、テレビ局から有力な人材が流出するタイミングと符合しているのだ。

では、なぜコロナ禍が「人材流出」に影響するのか。

テレビの番組制作は人の還流によって生み出される。人が動かないと番組を創り出すことができない。演じるのも人だし、演出するのも人だ。取材をされるのもするのも人である。コロナ禍によって店などの取材や「ロケもの」と言われる撮影は封印されてしまった。

ドラマはさらに厳しい状況だった。密な状態で、しかも至近距離で撮影をおこなうことが多いドラマは、多くの作品において現場で感染者が発生し、撮影がストップした。そんなとき、どういうことが起こるか。それは以下の3つだ。

① 「モノづくり」の醍醐味を感じられなくなる
② 現場だけでなく局自体も疲弊し、「守り」に入ろうとする
③ 「対面」から「配信」や「オンライン」への移行に拍車がかかる

テレビの番組作りの現場は、コロナ禍によって一変した。クラスターを防ぐために打ち合わせはもちろんのこと、衣装合わせや編集などの「ポスプロ(撮影後の後処理)」までもオンラインでおこなわれるようになった。クリエイティブな仕事というのは、自分の発想のニュアンスをどこまで伝えられるかが勝負だ。そんなとき、「面と向かって」というコミュニケーションが絶たれてしまうことは、最大の痛手である。

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守りに入る制作現場

それは、①に挙げたような「モノづくり」の醍醐味を奪われてしまうことにつながる。クリエイターは作品を作り上げたときの達成感はもちろんのこと、そこに至るまでのプロセスが「大変ではあるが楽しくてやっている」ようなところがある。その楽しみを奪われたら、どうだろうか。

コロナ禍の折には、多くの大学生が中退するという現象が起こった。大学に行けず、授業はオンラインばかり。そんな学びの環境に疑問を持って、前向きな気持ちを維持することが難しくなったのだ。テレビ現場の場合もそのケースに似ている。

②の「守りに入る」というのは、例えばこういうことだ。これは、実際にドラマの撮影時に私が直面した出来事である。屋外で撮影をしていたあるとき、現場を通りかかった一般人の方から局にお叱りの電話が入った。

「うちの家の近くでドラマの撮影をしているんだけど、鼻マスクの人がいて今の時代に不謹慎だ」

それを受けて上層部から現場に「気をつけるように」という厳重注意がおりてきた。私はてっきり「現場のことを心配してくれているのだ」と思い込んでいたが、よく聞いてみると理由は「レピュテーションリスク」だった。経営陣は会社の評判が下がって、企業価値やひいては株価に影響すると心配したのだった。スタッフの命と会社の利益を天秤にかけられたような気がして、嫌な気持ちになった。