地球温暖化を防ぐ方法は、月の破壊⁉

次はもっと具体的な「もし」の話、「もし太陽の光を弱める傘を宇宙に設置するとしたら?」というお話を紹介します。

猛暑日と熱帯夜が続く夏。日本だけでなく世界各国で気温の上昇が顕著です。2023年7月が「観測史上もっとも暑い夏」になると警告した世界気象機関(WMO)の見解を受けて、アントニオ·グテーレス国連事務総長は「地球沸騰の時代」と表現しました。人間の産業活動で放出される温室効果ガスによって気温が上昇している、というのが多くの研究者の見解ですが、ともあれ暑い。対策は待ったなしです。

アメリカのユタ大学で教授を務めるベンジャミン・ブロムリーさんは、温暖化を止めるための突拍子もないアイディアを少し真面目に検討してみました。①

① Bromley, B. C., Khan, S. H., & Kenyon, S. J. Dust as a solar shield. PLOS Climate, 2, 2(2023)

それは、宇宙空間に「日傘」を浮かべて太陽の光をちょっとだけ弱める、というもの。太陽を隠しすぎてしまうと地球が逆に寒冷化してしまうので、隠すのは太陽光の1~2%で十分なようです。

では、宇宙日傘はどうすれば実現できるでしょう。巨大な構造物を組み立てるのには、お金がかかります。一番単純な方法は、大量の砂をばらまくこと。地球から太陽の方向に150万km離れた場所は「第1ラグランジュ点(L1)」と呼ばれ、地球と太陽の重力が釣り合います。ここに砂粒を浮かべておければ、いい感じに日傘として機能してくれる……と、そう簡単な話ではありません。

このL1点、地球と太陽の重力が釣り合う場所ではあるものの、少しでもそこから物体がずれてしまうと、どんどん遠ざかっていってしまう不安定な点なのです。太陽からはプラズマの流れである「太陽風」や強い光が放たれているので、砂粒はこれらに押されて1週間ほどでL1点から離れていってしまいます。地球から砂粒を運べたとしても、どんどん流されていくので、どんどん補給しなくてはいけません。これは大変です。

問題はまだあります。太陽光を遮るために必要な砂の量は1000万t以上になるうえ、これを定期的に補充しなくてはいけません。1000万tの砂というのは、東京ドーム5杯分くらいに相当します。たいしたことない? いえいえ、そんなことはありません。

40回以上のロケット打ち上げを経て完成した国際宇宙ステーション全体で450tしかないことを考えると、1000万tの砂というのがとんでもない量であることがわかります。1000万tの砂を地球からL1に運ぶのに必要なエネルギーを計算すると、アポロを月に送ったサターンV型ロケット2万発分というまさしく天文学的な数字になってしまいます。

平松正顕『ウソみたいな宇宙の話を大学の先生に解説してもらいました。』(秀和システム)

もっと都合のいい砂粒の供給源はないだろうか、と考えたブロムリーさんが目をつけたのは、月でした。月は地球に比べて重力が6分の1しかありませんから、同じ量の砂をラグランジュ点まで打ち上げるのであれば、地球からよりも月からのほうが簡単です。

必要なエネルギーを見積もってみると、地球から運ぶときの10分の1ほどになりました。電力に換算すると数平方kmの太陽電池で賄えそうです。ロケットではなく物体を直接加速して放り投げる「マスドライバー」であれば、効率的に砂を送り続けることができそうです。