過去の成功体験からどう脱するか
将来的にはユーザーを回線契約で縛らないようになり、どのユーザーであっても、ドコモのサービスが使えるような世界観を目指すが、かつての「iモード」のビジネスモデルから抜け出せずにいるのも事実のようだ。過去の成功体験からいかに脱却するかが、いまのドコモの課題といえる。
2台持ちが普及してはいるものの、今後、契約者の急増は見込めない日本の携帯電話市場。NTTドコモは事業の新規開拓に注力するのだが、元NTTドコモで、iモードの生みの親として有名な夏野剛氏は「営業収益で4兆円を超え、5000億円近い利益が出ている超巨大優良企業が何の付加価値もつけないで新規事業に進出してしまったら、パイの取り合いでしかなく、新しい価値は生み出さない」と手厳しい。
そんななか、NTTドコモが成長するためには、「海外キャリアの買収しかない」と夏野氏は語る。現在、NTTドコモでは、インドのタタグループとともに、インドの携帯電話会社「タタ・テレサービシズ」に出資しているが、ドコモの出資比率は約26%だ。
「マイノリティ出資では向こうの経営権が取れない。だから、(出資しても)シナジーが全然出てこない。51%以上のマジョリティ出資じゃないと意味がない。売り上げ連結しないことには幅が広がったことにならない」(夏野氏)
海外キャリアの経営権を押さえれば、莫大な通信料収入が見込める。日本のドコモの契約数(6000万件)で4兆円という売り上げであることを考えれば、国外のキャリアを傘下に収めれば、ドコモの倍以上の売り上げも不可能ではない。英国のボーダフォンは海外のキャリアを次々と100%あるいは51%以上での買収を繰り返してきた。
先進国のキャリアは成長が頭打ちだが、途上国では契約者が急増しており、ボーダフォングループ全体の成長を後押ししている。
海外キャリアに対し、マジョリティ出資をしていれば、日本で培ったコンテンツサービスなども導入しやすくなる。スマートフォン時代になり、海外と日本国内で同じ仕様の端末が流通しているが、グローバルで端末をメーカーから調達すれば、コストを安く抑えることも可能だ。
国内で、小さな会社を買収し、全くノウハウを持っていないドコモ社員が新規事業を手がけて悪戦苦闘するよりも、勝手知ったるキャリアビジネスで世界を席巻していけばいいわけだ。
もうひとつ、キャリアとのシナジーとしてドコモがやるべきだと夏野氏が説くのが「国内メーカーの買収」だ。
現在、日本のメーカーは、アップルやサムスンに代表される海外メーカー勢に押され、日本国内でも疲弊した状態に陥っている。
海外メーカーに太刀打ちできないのは、NTTドコモが独自の携帯電話用プラットホームをメーカーに開発させ、なかなかスマートフォンに移行できない環境をつくったというのも一因としてあげられる。
「NECもパナソニックも富士通も、各社のモバイル部門をすべてドコモが買い、海外に輸出することを前提にしてオールニッポンの製造メーカーとして再編すればいい」(夏野氏)