本業は草刈り、中には仲介業務を兼務

多い会社では数千区画に及ぶ土地の管理を請け負っており、千葉県郊外においては、いまやひとつの地場産業として成立していると言っていい。

遠方に住む地権者に代わって、区画の草刈りなどの業務を行う草刈り業者の立て看板。限界分譲地特有の光景である。(出所=『限界分譲地』)

僕が知る限り1回の草刈り料金は数千円~1万円ほどで、都市部から分譲地までの交通費や作業の手間を考えれば決して高額なものではなく、システムとしては双方にとって合理的なものだと思う。

ただ当然ながら土地所有者は草刈りを目的に土地を所有し続けているのではなく、最終的な目標は土地の売却だ。ただ漫然と草刈りを繰り返していても、費用がかさみ続けるだけで何の解決にもならない。そこで草刈り業者の中には、宅地建物取引業の免許を保有し、そうした管理地の売買の仲介業務を兼務しているところもある。

しかし、彼らの本業はあくまで草刈りである。決して高額ではないとはいえ草刈りを行っていれば継続的な収入が見込めるが、売却してしまえば、管理地のひとつを失うことになってしまう。それでも、高額での売買が望める土地であれば仲介手数料もそれなりの額になるが、千葉の限界分譲地を実勢相場で売買するとなれば、その手数料などたかが知れている。

一方で、取引における手間暇や責任は、融資のための金融機関との折衝がないことを除けば通常の不動産取引と同様のものになるわけで、限界分譲地の取引など仲介業者にとって「おいしい」仕事ではない。

条件の悪い土地の所有者は格好の上客

売主も売主で、人によっては、現在の実勢相場に基づいた査定額を提示すると、ひどく不機嫌になってしまうことがある。査定を頼まれたので現実的な相場価格を伝えたら「当時は○○円で買った」と文句を言われたという話は、多くの地元不動産業者にとって定番の語り草になっている。

そんなことで無用に機嫌を損ねるくらいなら、たとえ売主の希望価格が、絶対に売却の見込みがないような価格であろうと、そこはあえて無理に伝えず、その言い値のまま広告を出し続けようという判断に流れてしまうのも無理はない。

一般の仲介業者であれば門前払いで扱いを断るような「負動産」の所有者でも、草刈り業者にとっては大事な顧客の一人であるからだ。むしろ、いくら草刈りをしても絶対に売れないような条件の悪い土地の所有者こそ格好の上客とも言える。

草刈り業者の皆が皆、自社の利益ばかり優先して(営利企業なのだから優先するのは当然なのだが)、顧客に正確な情報を伝えず、あるいは顧客を騙して無意味に管理を続けさせているというわけではない。