女性の容姿や年齢をネタに笑う人たち
今回の上川氏に対する発言では、「そんなに美しい方とは言わんけど」の後に聴衆から笑い声が起きている。女性の容姿や年齢は、麻生氏から見れば話のつかみで「ウケる話」の一つ、ぐらいの認識だったのだろう。ウケを狙うために女性をネタにし、貶める。そしてそれを笑う周囲。
今どの地方自治体も人口減少が深刻だが、その背景には特に若い女性たちの東京圏への流出という問題が存在する。なぜ若い女性たちが地元に残らないのか。自治体としていち早くジェンダーギャップ解消宣言をし、この問題に取り組んできた兵庫県豊岡市では、女性たちの流出の背景には、地域のジェンダー不平等、つまり男尊女卑的な職場環境や風土、慣行があると気づき、改善に取り組んできた。
この麻生発言と笑う聴衆の様子を見た地元の女性たち、特に若い女性たちはどう思ったのだろうか。
「麻生節」として許してきたメディアの責任
そしてもう1つ、麻生氏の発言を長年「麻生節」として許してきた政治メディアの責任も大きいと思う。麻生番をしていた記者から聞いたオフレコ懇談の場での発言の中には海外の首脳に関するものもあったが、漏れたら外交問題になるのでは、というほどの内容だった。だが内容以上にその発言を聞いたときの記者たちの反応が気になった。笑って受け流したのか。誰か1人でもやんわりとでも釘を刺した人はいたのだろうか。
岸田政権では2023年2月、首相秘書官だった荒井勝喜氏が性的少数者や同性婚を巡って差別的な発言をしたことで更迭された。オフレコの場での発言だったが、毎日新聞が「政権の中枢で政策立案に関わる首相秘書官がこうした人権意識を持っていることは重大な問題だ」(毎日新聞より)と判断し、あえて実名で報じた。
書いた記者は「オフレコ破り」だという非難も受けたが、私はこの記者と毎日新聞の判断は当然だと思う。内輪の話だったとしても、政権中枢にいる人物の人権感覚は、政策に大きな影響を与える。麻生氏に対してももっと早くからしつこく、オフレコ発言も含めてメディアが追求していたら、彼はこの地位にいただろうか。
仮に同様の発言を企業のトップがしたらどうだろう。今の時代、メディアだけでなく投資家、社内からも厳しく指摘され、場合によっては進退にまで発展するだろう。それだけ政界はメディアも含めて人権意識が低いと思う。そしてこのことが、女性たちが政治の世界を目指そうとしない一つの理由にもなっているのではないか。