メーカーの製造現場で取り入れられている“一人カンバン方式”

メーカーの製造現場へ目を転じてみよう。製造現場でよく知られているのが、「一人生産」方式だ。屋台の主人が客に酒や食べ物を出す姿と似ているので、「一人屋台」方式と呼ばれることもある。

スタンレー電気いわき製作所には、高橋勝子さんという女性従業員がいて、デンソーの自動車部品をつくっている。以前は分業でつくられていたが彼女に多能工になってもらい、デンソーの部品製造は彼女の一人仕事になった。部品は高橋さんがデンソーに営業して注文をとり、その注文に基づき必要な量の資材を資材会社に自分で発注する。材料が届いたら自分で完成品をつくり、自分でデンソーに納めている。自分一人でカンバン方式を実現しているのだ。分業より作業は速いし、精度もよいという。

一般にベルトコンベアなどの分業方式に代えて、一人生産方式を取り入れるメリットとしてあげられているのはつぎのような点だ。

人事評価がしやすく、製品をつくり上げる喜びも生まれる

「一人ひとりの能力がそのまま製品の出来高として現れてくるので、成果に対する具体的な人事評価を与えることができる。また部分ではなく全体を受け持つため、製品をつくり上げていく喜びも生まれる」。「製品一台をすべて組み立てることで、分業では見えにくい製品設計上の問題点を作業者が浮き彫りにできる」。

さらに一人生産方式の現場管理者からは、熟練すると製品全体を見て均質に組み立てられるので、質の高い製品ができるという声も聞かれた。

少品種大量生産から多品種変量生産へという顧客側の要求の変化もまた、一人生産方式と親和的だ。海外の事例だが、中国のある大手電機メーカーでは少品種大量生産の時代には一人が単独の工程を担当していたが、多品種少量生産に入った2002年以降は顧客の多様なニーズに応じて生産を調整するため、一人で2、3の工程をこなす方式に切り替えられたことが紹介されている。