親同士のトラブルは入試直前期に勃発しやすい

「ああ、もうすぐ入試の時期が近づいてくる」とちょっぴり不安になったり焦ったりする中学受験生保護者。そのようなネガティブな気持ちになると、自身と同じような境遇に置かれている中学受験生保護者たちにそんな思いをぶつけ合い、共有したくなるものです。

しかし、その行為が中学入試間際で大きなトラブルを引き起こすきっかけになってしまうことだってあるのです。

「先生、相談があるのですが……」

数年前、思い詰めた表情を浮かべ、六年生の保護者がわたしに声をかけてきました。応接室に入るや否や、その保護者はこんなことを切り出したのです。

「通っている塾は違うのですが、同じ小学校でずっと仲良くしているお母さんがいて……その娘さんも受験生なのですが、最近LINEで執拗しつようにわが子の受験校を探ろうとしてくるのです。何だかとても怖くなってしまって……」

写真=iStock.com/ipuwadol
※写真はイメージです

わたしはこんな提案をしました。

「それは心配ですね。それでは、塾側からこんな用紙を渡されて、子どもたちはもちろんのこと、保護者の皆さんもわが子の受験校のことや成績のことなどを一切口外しないように釘を刺されているから答えられない、と説明してみてはいかがでしょうか」

その用紙とは、先ほど紹介した「三つの『ない』」が記載されているものです。このように中学入試間際の保護者間のトラブルはしばしば勃発します。そして、子どもたちと比べると、親同士のトラブルを解決するのは容易ではないのです。

「わが子が受ける学校を○○くんのお母さんが周囲に言い触らしたのですが、親子ともに精神的にまいっています」
「本当は別の学校を受験したいのですが、付き合いの長い○○ちゃんのママが一緒に○○中学校を受験しようと誘いをかけてきて困っています」
「わが子が○○ちゃんにマウントをとったと、○○ちゃんのママから怒鳴り声で電話が来たのですが……どうすればよいでしょうか⁉」

皆さん、わたしの作り話、創作に思えるでしょう?

残念ながら、違います。むしろ、柔らかい表現に差し替えたものがあるくらいです。同じ小学校、同じ性別、同じ塾、同じ志望校……「共通項」が多い保護者同士ほど、この手のトラブルが勃発しやすいように感じています。

中学受験の主役は誰でしょうか。もちろん「わが子」ですよね。そして、原点に返って、中学受験というものをシンプルに「一文」で考えてみましょう。

矢野耕平『ぼくのかんがえた「さいきょう」の中学受験』(祥伝社新書)

「わが子が中学受験勉強に専心して、入試本番で合格を勝ち取る」

そう、これがすべてなのです。

入試直前期で保護者が不安に陥るのは当然のことですし、わたしはそのことを責めるつもりはもちろんありません。ただ、困り事や相談事があれば、それを周囲の「ママ友」「パパ友」に打ち明けるのではなく、お通いの塾の担当講師を頼ってほしいと考えます。要らぬトラブルは避けて、学力的、精神的に最も伸長する中学入試直前期に、わが子が受験勉強に専念できる環境の構築に努めてほしいのです。

関連記事
【第1回】中学受験生が手を染めるカンニングで最も根が深い手口とは…隣の子の答案覗き見、解答丸写しは"軽傷"
子供を伸ばしたいなら「寝坊で遅刻しそう」でも起こしてはいけない…現役東大生が説く「よく学ぶ子」の育て方
47都道府県の「旧制一中」の栄枯盛衰…地元トップを維持する名門22校と凋落した元名門17校の全リスト
「IQが高いのに勉強ができない子」はどこで間違ったのか…心理学者が「早期教育はやめて」と訴える理由
「かつては東大卒よりも価値があった」47都道府県に必ずある"超名門"公立高校の全一覧【2022上半期BEST5】