親同士のトラブルは入試直前期に勃発しやすい
「ああ、もうすぐ入試の時期が近づいてくる」とちょっぴり不安になったり焦ったりする中学受験生保護者。そのようなネガティブな気持ちになると、自身と同じような境遇に置かれている中学受験生保護者たちにそんな思いをぶつけ合い、共有したくなるものです。
しかし、その行為が中学入試間際で大きなトラブルを引き起こすきっかけになってしまうことだってあるのです。
「先生、相談があるのですが……」
数年前、思い詰めた表情を浮かべ、六年生の保護者がわたしに声をかけてきました。応接室に入るや否や、その保護者はこんなことを切り出したのです。
「通っている塾は違うのですが、同じ小学校でずっと仲良くしているお母さんがいて……その娘さんも受験生なのですが、最近LINEで執拗にわが子の受験校を探ろうとしてくるのです。何だかとても怖くなってしまって……」
わたしはこんな提案をしました。
「それは心配ですね。それでは、塾側からこんな用紙を渡されて、子どもたちはもちろんのこと、保護者の皆さんもわが子の受験校のことや成績のことなどを一切口外しないように釘を刺されているから答えられない、と説明してみてはいかがでしょうか」
その用紙とは、先ほど紹介した「三つの『ない』」が記載されているものです。このように中学入試間際の保護者間のトラブルはしばしば勃発します。そして、子どもたちと比べると、親同士のトラブルを解決するのは容易ではないのです。
「わが子が受ける学校を○○くんのお母さんが周囲に言い触らしたのですが、親子ともに精神的にまいっています」
「本当は別の学校を受験したいのですが、付き合いの長い○○ちゃんのママが一緒に○○中学校を受験しようと誘いをかけてきて困っています」
「わが子が○○ちゃんにマウントをとったと、○○ちゃんのママから怒鳴り声で電話が来たのですが……どうすればよいでしょうか⁉」
皆さん、わたしの作り話、創作に思えるでしょう?
残念ながら、違います。むしろ、柔らかい表現に差し替えたものがあるくらいです。同じ小学校、同じ性別、同じ塾、同じ志望校……「共通項」が多い保護者同士ほど、この手のトラブルが勃発しやすいように感じています。
中学受験の主役は誰でしょうか。もちろん「わが子」ですよね。そして、原点に返って、中学受験というものをシンプルに「一文」で考えてみましょう。
「わが子が中学受験勉強に専心して、入試本番で合格を勝ち取る」
そう、これがすべてなのです。
入試直前期で保護者が不安に陥るのは当然のことですし、わたしはそのことを責めるつもりはもちろんありません。ただ、困り事や相談事があれば、それを周囲の「ママ友」「パパ友」に打ち明けるのではなく、お通いの塾の担当講師を頼ってほしいと考えます。要らぬトラブルは避けて、学力的、精神的に最も伸長する中学入試直前期に、わが子が受験勉強に専念できる環境の構築に努めてほしいのです。