死にもしないのに「遺書」を書く陰湿さ

たとえば「嘆きつつ……」の歌の事件のときだって、わざと門をあけずにいれば、男はうんざりして別の恋人、町の小路の女のところへいってしまうのはあきらかだ。意地を張ったおかげで、みすみす彼女はライバルに夫を渡してしまうのだ。

永井路子『歴史をさわがせた女たち 日本篇』(朝日文庫)

あるときは、死にもしないくせに「遺書」を書いたりしている。病気になったふりをしたり、死ぬふりをするというのは、男から捨てられかけて、ノイローゼ気味になった女のよく使う手である。中にはそれが昂じてほんとに病気になってしまう人もいるが、遺書を書くというくらい男をうんざりさせるものはない。これではますます相手がうとましくなってくる。

その意味では「蜻蛉日記」は王朝版「夫にきらわれ方教えます」である。そう思ってみると現代でもすぐに役立つ人生の書ともいえそうだ。

もっとも、こんなことを書けば、あの世の彼女は言うかもしれない。

「わかっていても、やめられないのが女のヤキモチなのよ」

それはたしかにそうなのだが……。

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