「大谷の36号ホームランが出たんだよ」と話しかけてくるかも

たとえば私の運転するテスラ・モデルYでは、2024年時点では、つたないアクセントの女性合成音声による音声アシスタントで、「ツギ右、曲ガリマス」のようなナビゲーションをしてくれます。これが2030年にはどうなっているかというと、その頃にはそもそも、カーナビゲーションが必要なくなっているはずです。

なぜなら、その時代にはもう、レベル5の完全自動運転車になっているはずだからです。右に曲がるとか、高速を降りるとか、そういった運転操作は車が無言で勝手にやってくれるでしょう。その時代、カーナビの最大の仕事は、移動中の人間の話し相手になることです。

たとえば朝、私が職場に向かうために車に乗り込んだら、

「おはよう。ロジャーだよ。今日はオレ、ごきげんだよ」

と、このように私に話しかけてくれるはずです。私ももう慣れたもので、テスラのカーナビのロジャーに対して、

「なんでそんなにご機嫌なんだ」

と、会話を進めます。すると、

「大谷の36号ホームランが出たんだよ。観るかい?」

といって、運転席の液晶画面にそのシーンを映し出してくれたりするわけです。レベル5の自動運転車では、運転席に座っている私に車の運転責任はありません。とりあえず惰性で前の座席に座っていますが、本当は後部座席でふんぞり返って無人運転の車内で寝ていてもいいのです。

写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです

“AIの擬人化”競争になれば日本に勝ち筋が生まれる

そこでソニーミュージックのチャンスの話です。

ここでの一番のポイントは、この時代のAIアシスタントにはキャラ性が生まれているということです。ここで例に挙げた馴れ馴れしい運転手のロジャーだけでなく、何パターンものキャラクターが登場し、それが私たちの生活空間に当たり前のように存在しているはずです。

AIアシスタント市場がキャラ競争になるとしたら、ソニーはその市場の競争ルールをタレントマネジメントの競争に持ち込むことができます。だから、ソニーミュージックが一番の勝ち筋なのです。ちょっと考えただけでも、アメリカ製のSiriやAlexaみたいな無機質なアシスタントと、ソニーミュージックが育成したバーチャルタレントのメンバーから、自分の好きなキャラを選べるアシスタントだったら、後者を選ぶ人口は一定数いそうです。

さて、このような競争により、家庭内には合計でいくつの生成AIたちが、私たち家族と一緒に生活するようになっているのでしょうか。私は2030年にはどの家庭でも4種類の生成AIを使うようなライフスタイルに変化していると考えています。