次女の誕生と長女の異変
吉野さんは、子どもたちが飽きないように、新しいゲームソフトが出れば買ってあげ、夏には庭に簡易プールを設置した。サッカーボールやバドミントン、ローラーブレードなども用意し、お菓子も数種類常備した。
そんなある日、第2子の妊娠がわかった。長女には、「赤ちゃんができたから、もう抱っこはできないよ」と伝えた。
今回は、里帰りはしない代わりに、「お母さんは赤ちゃんを産んで大変だから、おばあちゃん家に行ってなさい」と言って長女を実家に預けた。
何度か預けると母親が、「長女ちゃん、うちに来るとこたつに潜り込んで、声を殺して泣いているんだけど……」と耳打ちする。「長女ちゃん、寂しいんだと思うよ。もうちょっと寄り添ってあげられない?」と言われた吉野さんは、カチンときた。母親に意見されることが耐えられなかった。「自分だってひどい母親だったじゃない! いい人ぶらないでよ!」という怒りが抑えられなかった。だから吉野さんは、母親の忠告を無視した。
産院を退院した吉野さんが、次女に母乳をあげていると、長女が言った。「お母さん、こっちのおっぱい余ってるね」。
長女は、3歳になってもおっぱいを欲しがったが、3歳にもなっておっぱいを飲むなんておかしいと思った吉野さんは、入園前に無理やり断乳させていた。断乳させた日はひたすら泣いて、夜になってもなかなか寝なかった。
「もうお姉ちゃんなんだから、おっぱいなんておかしいでしょ!」と言うと、長女は肩を落とした。
次女は人見知りが激しく、吉野さんから片時も離れなかったため、次女誕生後、長女を抱っこすることはなくなった。それでも長女は、次女を可愛いがった。自分のおやつをあげたり、抱っこをしたり、頭を撫でてあげたりと、さながら“小さなお母さん”だった。
「今になってみれば、自分がしてもらいたいことを、妹にやってあげていたのだと思います。そんなことにも気付きませんでした……」