作者は自分だけが知っている謎を明かしていく

続きが気になる良い書き出しですね。以下は僕の作品の一行目です。

「いい?」と言って姉さんは、僕の頭に手をのせた。

街にはさまざまないとなみがあって、誰もいなくなるとその跡だけが残る。

犬が死にそうだ、と実家の母親から電話があった。

十年ぶりってのは、どれくらい久しぶりなんだろう。

(上から、『リレキショ』、「ハミングライフ」[角川文庫『あなたがここにいて欲しい』所収]、『100回泣くこと』[小学館文庫]、『あのとき始まったことのすべて』[角川文庫])

作者は、自分だけが知っていることをどう打ち明けていくか、どう種明かししていくかという観点を持つべきです。文章を答えの連続にしてはいけません。謎を立てることで、読者に読み解くよろこびが生まれるからです。

だから、冒頭に謎を含める、というのは、読み手側の立場に立った文章の書き方、と言えます。謎があるから、読者は文章を読んでくれるからです。

でも実は、それは、読者のためだけじゃないんです。“謎”は書き手側のエンジンにもなってくれます。

謎からさまざまな発想や概念が生まれていく

小説投稿サイト「ステキブンゲイ」で、「この一文に続け」という企画をやったことがありました。お題として小説の一行目を僕が考えて、それに続く短い小説を投稿してもらったんです。その時の一行目は、以下としました。

たん、たんたん、たんたんたん、と音が聞こえた。

何かを言い切り、かつ、謎がある文章です。

ここから発想した多くの投稿が集まったのですが、似たものは一つもなく多種多様で、正直、驚いてしまいました。

たん、たんたん、という音が、隣の部屋のダンスの音だったり、銃声だったり、手拍子だったり、台所から聞こえた音だったり、モールス信号の音だったり、焼肉店での注文の声だったり――。

つまり謎を含んだ第一文から、さまざまな発想や概念が生まれたのです。しっかりした謎を立てることで、発想は飛躍するということです。

書くことと考えることは同義です。書いたことによって、次の発想が生まれます。謎を立てることで、ただ説明を重ねていくことでは決して生まれない文章や、概念が生まれるはずです。

謎を立てることは、書き手にとってもエンジンの役割を果たす。

そうきもに銘じて、第一文を書いてみてください。