人生は一度きり。やりたいことだけで暮らしたい

Akinaさんはなぜデジタルノマドになったのか? 慶應義塾大学を卒業後は英語教材系の出版社で編集者として勤務。ノマドワーカーに転向する最初の転機となったのは26歳の時で、左脚に腫瘍が見つかり、半年間車椅子と松葉杖の生活を余儀なくされた。

「そんな不自由な生活の中でも、当時は電車に乗って出社しなくてはいけないのがキツかった。リモートでも仕事は十分できるのに、組織に所属していることの不自由さを実感しました。さらに1年後に母ががんにかかり、闘病の末に亡くなったのです。人生は有限であり一度きり。自分が本当にしたいことを優先して生きていこうと決めたのです」

写真=Akinaさん提供
福岡でのワールドワーケーションカンファレンスでも講演をした

母の死からほどなくして、8年間勤務した会社を退職。前からやりたかった世界一周と思い立ち、2019年に「ピースボート」に通訳として乗船した。居酒屋の手洗いなどに募集要項のポスターが貼られている「ピースボート 世界一周の船旅」は、誰もが目にしたことはあるのではないか。Akinaさんは、妻を亡くして意気消沈している父とともに、世界一周の旅に出る。

「通訳として乗船すれば、仕事と引き換えに私の渡航費用はタダになりますが、父の渡航費は私が捻出しました。落ち込んで引きこもりになってしまった父に、新しい出会いがあればいいなと思っていたからです。ピースボートの乗客は大学生の若者、私のように会社を辞めた20〜30代のほか、リタイヤした世代が圧倒的に多いのです」

ピースボートは世界一周コンテンツのなかでは費用がリーズナブルだが、そうはいっても100万円以上かかる。30歳そこそこの女性がポンと払える資金力が驚きだ。

写真=Akinaさん提供

パンパースが貼られた天井のボロアパート生活

「会社員時代の退職金で、父の渡航費を払うことができました」というが、そこには幼い時から質素倹約を旨とする母の影響があった。

例えば、靴下に穴がどれだけあいても母は何度も繕い、ボロボロになるまで履いた。おのずと本人にもお金は使うところには使い、使わないところは徹底的に切り詰める習慣がついたのだ。

大学を卒業後しばらくは実家から片道2時間かけて会社に通勤。通勤時間を短縮するために都内で一人暮らしをするが、庶民的なエリアの古くて安いアパートでも十分と考えて、その浮いたお金を会社の財形貯蓄などにせっせと回した。しかしあまりにも古いので雨漏りのトラブルも起こる。修理を業者に頼んだところ、なぜか雨漏り部分に紙おむつのパンパースを貼られてしまったのだとか。

「だから毎晩、天井のパンパースを見ながら寝るはめに。そんな時に左足の腫瘍が見つかりました。手術後にアパートの外階段を上り下りするのが大変だったので、引っ越すことにしたのです。だけど会社の通勤に便利な場所だと家賃が高いし、購入したほうが月々のローン返済額が家賃より安い。しかも自分の資産にもなります。だから、住宅財形から頭金を払い、思い切って都心部に2LDKのマンションを買いました」