対象者が限定的なうえに複雑な国の子育て支援策

これに対して政府の大学無償化には批判的な意見が多くなっています。この背景には無償化の対象者が限定的であり、関連する制度も複雑であるという点が影響していると考えられます。

まず大学無償化の対象となるのは、子どもが3人以上いる世帯です。この時点で「えっ! うちは対象外だ」とショックを受けた方もいたかと思いますが、そもそも子どもが3人以上いる世帯の割合は日本で減っています。

厚生労働省の『国民生活基礎調査』を見ると、子どもが3人以上いる世帯の割合は1990年以降徐々に低下し、2022年では子どもがいる世帯全体の12.7%です。この間、子どもが2人いる世帯も低下し、かわりに子どもが1人の世帯の割合が増えています。

このように大学無償化は、恩恵を受ける対象が減少している層に向けて実施される構造となっているのです。全世帯の中で子育て世帯は2割ほどにすぎず、子育て世帯への政策が進まないことは以前にも述べたとおりですが、3人以上の子どもがいる世帯となるとたった3%程度です。

また、今回の無償化策では、一番年上の子どもが扶養を外れ、扶養されている子どもの数が2名となった場合、無償化の対象外となってしまいます。つまり、子どもが仮に3人いたとしても、そのすべての子どもの学費が持続的に無償化されるわけではなく、期間限定で無償化となるわけです。

手当を拡充しながら扶養控除を引き下げる愚策

さらに、岸田首相の進める「こども未来戦略」では、高校生までの児童手当の拡充と、高校生がいる世帯の所得税と住民税の扶養控除の引き下げも同時に検討されています。児童手当の拡充は世帯にとって金銭的にはプラスですが、所得税と住民税の扶養控除の引き下げは金銭的にはマイナスです。これでは子育て世帯を経済的に支援したいのか、それとも逆なのかメッセージが不明瞭となってしまいます。この状況下で新たに多子世帯の大学無償化が登場したわけであり、制度として複雑さを増したといえるでしょう。

以上の点から、政府の多子世帯の大学無償化は対象が限定的であると同時に、関連する制度が複雑であるため、不満を持つ人が多くなっていると考えられます。「もっとシンプルに、子育て負担が減る政策を実行してほしい」と多くの人が思っているのではないでしょうか。